日本を支配する「空気の暴走」は止められるのか なぜ同調圧力が強い国だと感じられるのか

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日本人はなぜ空気を読む、と思われがちなのでしょうか?(写真:StudioR310 /PIXTA)
戦時中も、コロナ禍も……日本では、大事なことは何となくの「空気」で決まっていることもあります。この息苦しさを打ち破る手立てはあるのでしょうか。学習塾代表で著述家の物江 潤氏の新著『空気が支配する国』を一部抜粋、再構成し、得体の知れぬものの正体に迫ります。

日本は同調圧力が強い国なので、とても息苦しい、生きづらい――こんな主張をよく目にします。最近出た『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』(鴻上尚史・佐藤直樹著、講談社現代新書)という本のオビには、こう書いてあります。

「日本は世界でもっとも同調圧力が強い国だった」「新型コロナが炙り出した世間という名の『闇』に迫る」

たしかに、私もそうした圧力を感じることはあります。ただ、こういう見方をそのまま受け入れていいのか、というと疑問も感じます。新著『空気が支配する国』を書くにあたり、いろいろと古今東西の事例を見ていくと、日本は同調圧力が強いというよりは、空気という曖昧な掟が強い力を持つ国だ、と捉えるほうが正確ではないか、という結論に至ったのです。

日本は世界でもっとも同調圧力が強いのか?

まず、「日本は世界でもっとも同調圧力が強い」という点については、日本国内では定説と化してしまっているようですが、これを否定する心理学の研究もあります。アメリカの心理学者であるソロモン・アッシュは、人々はどの程度、周囲と同調してしまうのかを確かめるべく実験をしました。

実験では被験者のほかに、あらかじめ同じ回答をするように打ち合わせをした7人のサクラを用意しました。実験で用意された問題は、図Aに描かれている線と同じ長さの線を、図Bにある3本の線から選ぶというものです。ここで、7人のサクラが不正解を選んだとき、被験者はどのくらい周囲に同調し不正解を選択してしまうかを確認するわけです。

アメリカ人に対して行ったアッシュの実験では、まったく周囲と同調せず回答を続けた人間は26パーセントでした。イメージでは周囲に流されそうにないアメリカ人も、意外と同調圧力に弱いのかもしれません。人間、誰だって顔色はうかがうのです。

そして、同じ実験が日本でも実施されました。横並びが好きな日本人は、もっと不正解に同調してしまいそうな気がします。ところが、ハーバード大学の博士課程にいたフレイガーが、慶應大学で学生を対象に実施した実験では、周囲と同調しなかった人間が約27パーセントにも上ったのです。アメリカとほぼ同じだったわけです。慶應大学だけでなく、大阪大学でも同様の実験が行われましたが、結果は似たようなものでした。

この結果について、社会心理学者の我妻洋氏は、実験でのサクラは赤の他人であるため、被験者の行動に影響を与えづらいのではないか、と分析しています。日本人は「意義のある他者」には同調するが、そうでない人にはときに冷淡であったり、敵対的であったりするのだということです。

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