整備新幹線が時速260kmしか出せない事情 理論的には時速300km以上の高速運転も可能

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整備新幹線の構造物は、鉄道・運輸機構が建設して、JRに貸し付けている。同機構の事業活動について評価を行う事業評価委員会は、現在建設中の北海道新幹線(新青森―新函館間)に対し、2011年度に「既存の新幹線においても時速300キロメートル級の運行が実施されていることや、世界の高速鉄道の動向を踏まえると、将来的に速度向上を図ることを検討する必要がある」と指摘している。やはり、有識者の間でも、速度向上については議論されていたのだ。

しかし、この点について、機構側は「指摘は重く受けてとめているが、時速260キロメートルで国から認可を受けたので、われわれの一存で時速300キロメートルに引き上げるわけにはいかない」と回答した。

一度決めた最高速度の引き上げには、さまざまな問題が伴う。速度向上によって、周囲への騒音が拡大する。そのため、沿線の環境調査をやり直す必要が出てくる。JRへの貸し付け条件も見直さねばならない。

「構造物は時速320キロ運転に耐えられる」との前述の発言にも、「本当に可能か、安全工学に基づき、区間ごとに慎重な検証が必要だ」と、国土交通省の担当者は疑問を呈する。ただ、すでに開業した区間はともかく、これから建設が着工する区間については、問題は少ないのではないだろうか。

時速360キロなら4時間以内

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JR北海道の資料にも、北海道新幹線区間の営業最高速度は時速260キロメートルと記されている

2035年に札幌まで延伸する予定の北海道新幹線は時速260キロメートル運転を前提としている。その場合、東京―札幌間の所要時間は5時間01分と試算されている。これは、東海道山陽新幹線の東京―博多間の所要時間とほぼ同じで、航空機と比べると圧倒的に不利だ。

だが、数年前に北海道経済連合会は、時速360キロ運転で3時間57分としている。将来の技術の発達を考えれば、不可能な速度ではない。

現在、自民党内では、整備新幹線の開業前倒しの議論が急浮上している。「開業前倒しにより経済効果が高まる」との理由だが、一時的にとどまる前倒し効果に比べて、速度向上による経済効果は将来にわたって続く。速度向上についても議論する価値はあるはずだ。

(詳細については「週刊東洋経済」2014年5月31日号<5月26日発売>の特集「リニア革命」をご覧ください)

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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