ゾウ埋めて、タヌキ煮る「標本バカ」な男の生活 あまり知られていない博物館研究員の仕事とは

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絶滅危惧種ではないヤギだって、今後もしかしたら変異していくかもしれない。100年前のヤギはあごがこんな形だった、と残すことが未来につながる。何でも残しておけば、後で絶対に役に立つ。

アフリカゾウ一体を来年掘り返す

──一連の工程で面白かったのが、大型動物の場合、解体していったん土中に埋めること。それを掘り起こして骨格標本にするんですね。

ちょうどアフリカゾウが姫路に1体埋まってて、来年掘り返します。ベストは2年。2年埋めておくと、軟らかい組織は土中の生物が分解してくれて完全な骨が残る。業界の常識的なやり方です。一度4トン程度のゾウを、このサイズなら地下作業室でいけると持ち帰ったら、残った肉と皮の産廃費用がバカにならなかった。

『標本バカ』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします)

小型動物なら、皮を剥いで内臓を取り出した後、カツオブシムシなど昆虫に肉を食べてもらう。タヌキなどの中型獣は、電気式煮込み鍋に70度で3週間が基本。残念ながらお肉を煮るようないい香りではないけど、2〜3回水換えするうちにだんだんにおいは消えていきます。最終的にはドロドロに煮崩れて、ちょっと洗って乾燥させればきれいな骨の出来上がり。

──標本収集に“3つの無”ありと。

はい。まず無目的。たとえドブネズミの標本だって、いつ何の役に立つかわからない。次に無制限。数はあればあるほどいい。たくさんあればいろんなことが調べられるし、同時に複数の場所へ貸し出して多くの人に見てもらえる。次に無計画。哺乳類の標本集めは何かと制限されやすいから、集められるときに集めておかないと。要は生モノ優先ってこと。動物園から「今すぐ取りに来て」って電話が入ったら、この取材も「ごめんなさい」ですぐ向かいます(笑)。

そこにもう1つ足すと、無欲。別に僕の手元じゃなくても、みんながアクセスできる場所ならどこででも残ればいい。科博の哺乳類標本は10万点目標に対し、7万点目前まで来ました。収蔵に余裕がなくなって、倉庫を借りて何とかやってます。置いとく場所がないから処分、とかはしません。博物館は将来のために残しておく場所だから。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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