──“標本バカ”として覚醒されたのはロシア留学時代とか。
弘前での学生時代、実験結果の信頼性を示す証拠として標本を残すよう、指導されたのが最初でした。当時は単にアルコールにポチャンってやる程度だった。
その後モグラの染色体の研究でロシアへ行って、価値観が変わりました。夏場に捕った30匹の頭骨標本のうち、4〜5匹の歯の数に変異があったんです。それはちょっと異常な率で、冬場は積雪でモグラを捕獲できないこともあり、これは調べてみようと博物館の門をたたいた。そしたら大量のモグラの標本に遭遇した。衝撃的でした。
博物館の研究員がしていること
──で、なぜ“バカ”に?
博物館の本来の存在意義を、ロシアで初めて知ったわけです。博物館の真に大切な機能は、展示より、研究者を支援するために生き物の標本をたくさん収蔵しておくことなんだと。いつでも誰でも使えるよう整備しておくことが大切なんだというのを学びました。
帰国後は、自分が作った標本や研究室にゴチャッと置いてあった標本を全部整理することから始めた。そのうち噂が広がって、猟師さんなんかが声をかけてくれるようになり、「こんなのもあるぞ」「やります、やります」と。その頃からがバカでしょうね。
──大学に残るのではなく、博物館へ就職されたのもその延長線?
そう、僕が働く場所は博物館やと決めたんです。博物館での僕の生活はそうとう変わっている。でも博物館にはそんな人間がいて、博物館とは大事な標本を集める場所なんだよ、というのを純粋に知ってほしいとこの本を書きました。多くの人にとっての博物館は展示室だけど、本当は裏側があって、バカみたいに地下の部屋にこもって標本作る人がいる場所なんだ、どうだ面白いだろ?みたいな。
──確かに博物館の研究者の仕事って、イメージしにくいです。
博物館はむしろ未来のために存在してる、そんな信念を持ってやっています。未来のために、が博物館そのものの存在意義。
例えばこのケナガネズミ。日本でいちばんデカいネズミですけど数が急減していて、100年後いるかどうかわからない。なので今いる個体を適切に処理して収蔵庫にしまっておく。僕自身は大して興味なくても、標本にしておけば100年後、絶滅したケナガネズミを知りたい人が出るかもしれない。そのときのために残しておく。
ログインはこちら