「使えない弁護士」が珍しくなくなった根本背景 かつては合格率3%、今や3人に1人が受かる構造

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予備試験合格資格者の司法試験合格率はなんと81.8%(2019年)。ロースクール全体の29.1%はもちろん、ロースクール勢でトップの京都大学の62.7%を大きく凌駕している。

この圧倒的な合格率を背景に、予備試験の受験者数はほぼ右肩上がりを続け、ここ数年は年間1万人を上回る。口述試験までクリアした合格者は400人超で、合格率は3~4%。旧司法試験並みの超難関となっている。

「予備試験と司法試験で求められる知識レベルは同等」。司法試験予備校はそう口をそろえる。業界最大手の伊藤塾、新興のアガルートアカデミーとも、大学1年次などできるだけ早期から、予備試験に向けた勉強を始めることを推奨している。実際、各予備校には慶応大学の付属校を中心に高校生も通っており、高校在学中に予備試験に合格した例すらある。

予備試験合格は優秀な若手であることのまたとない証明となっており、「ロースクール1年目までに合格できれば、就職人気の高い5大ローファームにもほぼフリーパスで入ることができる」(予備試験合格者の若手弁護士)とされる。

ロースクールの教員たちからは、開設当初の学生は知的足腰も強く、議論しがいがあったとの声が漏れる。それは彼らが旧試験の経験者たちで、法的知識の土台があったからこそといえる。であれば、予備試験のための勉強をした学生が増えれば、ロースクールの持つ幅広いメニューが生きる可能性もある。

実際に受かっているのは若くて裕福な人ばかり

だがロースクール側が予備試験を見る目は厳しい。「元は学費が払えない人を対象としたもの。だが実際に受かっているのは若くて裕福な人ばかり。本来は予備試験を廃止すべきで、経済的困窮者には国が奨学金支援をすればよい」(ロースクール幹部)といった声が上がる。

今年度から新たな法曹養成ルート「法曹コース」がスタートした。法学部3年での早期卒業を前提としてロースクールに進学するため、1年分の学費が節約できる。同時にロースクール在学中に司法試験を受験できるようになるため、時間短縮も可能となる。ロースクール側から放たれた、明確な「予備試験対策」の矢だが、どこまで刺さるかは未知数だ。

いずれにせよ、「法曹離れはようやく底打ちし回復基調だが、まだ裾野の広がりは見えない」(別のロースクール幹部)のは事実。業界に有為な人材を呼び寄せるための、さらなる変革は欠かせない。

『週刊東洋経済』11月7日号(11月2日発売)の特集は「激変 弁護士」です。
風間 直樹 『週刊東洋経済』編集長

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政経学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。14年8月から17年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、19年1月から調査報道部、同年10月より現職。著書に『雇用融解』(07年)、『融解連鎖』(10年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(13年)など。

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