日本に「ワサビ食文化」が定着した納得の理由 トウガラシよりも日本の食に浸透した背景

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この調査の結果がインターネット上で公開された時には、「どうせ大きくなったら自然にワサビも食べられるようになるだろう」「高校生に調査したところで、ワサビ離れと結論付けるのは早いだろう」という指摘を受けた。確かに、杞憂に終わってくれればよいのだが。

私が恐れているのは、ワサビの経験がなく苦手意識を持ち続けた若者が、挽回の機会を与えられないことである。ワサビ嫌いの若者がそのまま親になり、家庭でワサビを経験する機会を子供に与えないとしよう。

その結果、その子供もワサビを克服する機会が与えられないまま大きくなる可能性がある。そうした「負の連鎖」を恐れているのである。実際に、高齢者に同様のアンケート調査を行ったところ、ワサビを嫌いとする人はほとんどいなかった。「すしにワサビ」「刺身にワサビ」が避けられなかった世代だったからかもしれない。

香辛料の種類が少ない日本

香辛料の主たる用途は、獣肉の除臭、保存および防腐、暑中時の食欲減退防止などとされている。もともと日本は外国に比べて用いられる香辛料の種類は少ない。生物学者シャーマンらは、平均気温の高い国ほどより多くの香辛料が料理に用いていると主張している。

彼らはまた、世界各地の香辛料利用について調べた経験から「気候帯が類似している日本と韓国の香辛料の用いられ方に顕著な違いがある点が非常に興味深い」としている。

その理由として彼らは、日本の魚食文化(とくに生食文化)と韓国の肉食文化の違いに起因しているのだろう、と考察している。韓国食文化研究者である鄭大声によっても同様の考察がなされている。「日本においてなぜ、ワサビがこれほどまでに食文化に浸透してきたのか」について考えてみよう。

トウガラシは新大陸原産であり、もともと日本列島には存在していなかった。持ち込まれた時期については諸説あるが、室町後期に南蛮人が伝えたとの説がある。いずれにせよ、奈良や平安時代から用いられてきた植物の記録はたくさん残されているなかで、日本人がトウガラシを利用するようになったのは早くても室町以降であると考えられる。

日本最古の本格的な料理書と言われる『料理物語』(1643年)にも、ワサビの記述はあるものの、トウガラシはまったく登場しない。これに対してワサビは、学名であるEutrema japonicumが示すように日本固有種であり、日本原産の植物である。トウガラシとワサビでは、そもそも日本国内での歴史的な古さに違いがあることは間違いない。

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