プリンスホテルが「引き算のホテル」に託す使命 デジタル世代と既存ブランドの架け橋となるか

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スマートイン恵比寿・支配人の薄井茜氏はこう振り返る。「サービスをどう割り切るかという悩みはあった。でも、実際にスマホなどのデジタルを活用したツールを使ってみると、とても便利で私たちも楽しいと思った」。宿泊客の目線でサービスを見つめ直し、葛藤を乗り切った。

開業を目前にコロナ禍が到来。宿泊客の2割が海外客という事前のシミュレーションは崩れたものの、スタッフや客同士の接触を避けるコンセプトは、偶然にもコロナ後、ニューノーマルの時代に合致していた。開業が当初の7月から10月に遅れた以外は、オペレーションへの影響はなかったという。

シンプルな内装の客室。スマートスピーカーに加え、スマートミラーが置かれた部屋もある(記者撮影)

開業後は「ビジネス需要が停滞しているものの、直近では連泊で利用するお客様も増えてきた」(前田氏)という。今後は会員組織と連携した送客や、インスタグラムでの情報発信を強化し、デジタル世代にアピールする方針だ。

あの星野リゾートや東急も参戦する激戦区

西武HD後藤社長が掲げる「10年で100店」はビジョンではなく、確固たる目標だ。すでに2021年1月に熱海、同年夏に京都、2022年に沖縄で出店を予定している。首都圏に加え、地方都市や新幹線の停車駅、地方空港の周辺都市など、利便性の高い土地に出店していく。また、熱海では顔認証によるチェックインシステムを取り入れるなど、スマートインとしては特定の形を作らず、常にサービスを刷新していく構えだ。

しかし、激戦市場で勝ち抜くのは容易ではない。藤田観光はミレニアル世代向けに、AI コンシェルジュなどを取り入れた「HOTEL TAVINOS(ホテルタビノス)」を2019年に開業。東急ホテルズも同世代向け「横浜東急REIホテル」を6月に開業した。星野リゾートも「BEB」の多店舗展開を始め、29歳以下なら1泊4000~5000円で泊まれる(3人利用時)「エコひいきプラン」などで新規開拓を進めている。

前田氏は「若者が使うツールは一つではなく、一定の期間で変わっていく」と語る。ライバルとの競争に勝ち、若者の心をつかむためには、スマートインも一所にはとどまれない。新ブランドの成否は「走りながらどれだけ変わっていけるか」にかかっている。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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