サザエさん「5連続パー」を奇跡だと感じる理由 統計学上、出る手の確率はいつも同じだが…

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真壁:ルーレットで赤が出るか黒が出るか、これは、それまでの結果とはまったく関係がありません。それでも、そもそも先入観のようなものがあるので、心理的に自分が望む「シンメトリーな結果」になってほしいと思うのではないでしょうか。

エネルギーの大食漢・脳が好む美人の条件

中野:いまのご指摘は極めて鋭く、人間の本質的な部分を突いた話ではないかと思います。人間は「シンプルなものこそが美しい」とイメージしてしまう傾向があります。例えば美人といわれる人の顔は左右対称であることが多いと言われています。では、なぜ左右対称の顔を美しいと感じるのでしょうか?

その人が健康であり、それが顔に表れているから、結果、左右対称であることに美しさを感じる、というふうに考えがちですが実は脳に理由があるのです。

これは、脳の「認知負荷」の問題です。脳という器官は、実はものすごく楽をしたがっています。そのような状態では、左右対称の顔のほうが楽に認知できるので、ついついそうしたタイプを美人だと感じてしまうわけです。

では、なぜ、脳は楽をしたがるのでしょうか? それは、脳がものすごいエネルギーの大食漢であることに関係しています。人間の脳は、物事を考えたり、何かを認知したりするだけで、膨大なカロリーを使うのです。

ところが人間の脳は、ほかの動物と比べれば相当な重量があるのですが、人間の体全体から見ると、実は3%程度の重量しかない。この3%の重量で、カロリーや酸素は、体全体の必要量の4分の1ぐらいを使ってしまうのです。

会社内に社員全体の3%ぐらいの人数しかいない部署があり、もしその部署が予算の4分の1を使い切るとなると、これは大変なことになります。社内から猛反発を食らうでしょう。あるいは社内全体に対し、非常に丁寧な説明が必要になるかもしれません。ほかの部署からは、いずれにしろ「なるべく節約しなさい」と言われるはずです。

『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

これは脳の場合も同じであり、つねにほかの器官から節約を求められているわけです。ゆえに、なるべく節約しながら脳を動かしたいのです。

結果、節約しながら脳を動かせるような刺激があれば、それを好ましく感じるのは当たり前のことで、左右対称の顔を美しいと感じるのは、脳が使用カロリーを低く抑えるためなのです。こうして認知負荷も低く抑えることができるのでしょう。

人間が左右対称なもの、シンメトリーに安寧を求めてしまうのは、認知負荷を低く抑えたいからだということです。

美しいことと正しいことは、必ずしも論理的に一致しているとは言いがたいのですが、私たちはこれを混同してしまう傾向を持っています。例えば、誰もが論理的であると思うような有名な物理学者でも、「その方程式はなぜ正しいといえるのですか」と問われたとき、「美しいからだ」と答えたというエピソードが知られています。

美しさを判断することと正しさを判断することは、脳の同じ領域で処理が行われているので、脳の中ではこれらを峻別することが難しいのです。

中野 信子 脳科学者

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なかの のぶこ / Nobuko Nakano

医学博士、認知科学者。1975年、東京都生まれ。東京大学工学部卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて、博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。現在、東日本国際大学教授。著書に『脳内麻薬』『ヒトは「いじめ」をやめられない』『サイコパス』などがある。テレビ番組のコメンテーターとしても活動中。

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真壁 昭夫 法政大学大学院政策創造研究科教授

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まかべ・あきお / Akio Makabe

1953年、神奈川県に生まれる。1976年、一橋大学卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行。ロンドン大学経営学部大学院、メリルリンチ社への出向を経て、みずほ総合研究所調査本部主席研究員などを歴任。2005年から信州大学で、2017年から法政大学で教鞭を執る

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