肺炎が人の命をあっさりと奪う恐怖のカラクリ 体内に発生した炎症が機能不全を引き起こす

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そしてB細胞が産生する炎症性サイトカイン、IL-6などが重症化を呼ぶサイトカインストームに関与していることも判明しているため、その産生を抑える方法も考えられます。私の研究室では、細胞のミトコンドリア内で酸素と栄養素を使ってエネルギーを生み出す「細胞呼吸」の研究で得た知見を応用し、ヘム合成系の産物がウイルス増殖を抑え、炎症性サイトカインを抑制する治療メカニズムを研究中です。

こうした研究の初期段階から、持病のある方や高齢者は重症化リスクが高いことがわかっています。子どもや若者は無症状だったり風邪と変わらないような軽い症状ですんだりする傾向が見られた一方で、持病のある方や高齢者は死亡率が非常に高い傾向が確認されました。厚生労働省のまとめでは、基礎疾患のない方に比べ、がん、高血圧、糖尿病の方は5倍ほど、心疾患の方は10倍もの重症化リスクがあり、40代以下に比べ60代は10倍、80代以上は100倍以上の重症化リスクが確認されています。この背景には何があるのでしょうか。

持病のある人が重症化しやすい決定的理由

まず白血病や免疫疾患などの持病がある方は、そもそも感染に対する防御システムに問題を抱えています。ウイルスを駆逐する部隊の数が少なかったり、足りていてもウイルスの居場所にたどり着けなかったりしたら、感染した細胞は増える一方に。重症化しやすいのは、ある意味当然です。

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日本人にもかなり多い糖尿病も免疫機能が低下しやすく、どのウイルスにも感染のリスクが高い傾向にあります。血液中にブドウ糖が増えすぎると白血球などの免疫に関わる細胞の機能が低下し、抗体をつくる機能まで低下するからです。その状態が続いて全身の毛細血管が劣化することも、重症化リスクを高めます。

毛細血管が劣化すると、酸素や栄養素が体のすみずみまで行き渡りにくくなって全身の細胞の機能が低下するだけでなく、感染部位に免疫細胞が届きにくくなってしまうのです。高齢者も同様に、高血圧などによって起きる生活習慣病によって毛細血管が劣化しがちな傾向にあるため、重症化リスクは高いと言えます。

根来 秀行 医師、医学博士

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ねごろ ひでゆき / Hideyuki Negoro

東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程修了。ハーバード大学医学部客員教授(Harvard PKD Center Collaborator, Visiting Professor)、ソルボンヌ大学医学部客員教授、杏林大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、信州大学特任教授、東京大学客員フェロー、事業構想大学院大学理事・教授。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、最先端の臨床・研究・医学教育の分野で国際的に活躍中。企業やトップアスリートのアドバイザーも務める。『ウイルスから体を守る』(サンマーク出版)、『ハーバード&ソルボンヌ大学 根来教授の超呼吸法』(KADOKAWA)など著書多数。

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