肺炎が人の命をあっさりと奪う恐怖のカラクリ 体内に発生した炎症が機能不全を引き起こす

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一方で「ウイルス性肺炎」は、直接的なウイルスと白血球の戦いでは起こりません。まず、ウイルスが体内に侵入したことに白血球などが反応し、サイトカインなどの炎症性物質を大量に出す「サイトカインストーム」を起こします。

この免疫の暴走によって広範囲の毛細血管や間質に炎症を起こすのが、ウイルス性肺炎です。激しい炎症は間質や毛細血管を傷つけ硬くし、呼吸による肺胞がふくらむ動きを邪魔します。その結果、酸素が取り込まれなくなり呼吸不全に至ってしまうのです。

新型コロナウイルスによる肺炎もこのパターンで、両肺に激しく炎症を起こして血栓ができるなどし、急激に症状が悪化すると呼吸不全を起こしてしまいます。

ウイルスが増殖を始める前に免疫細胞がウイルスを倒せれば、このような問題は生じません。発症に至らず、ほとんど症状が出ないうちにウイルスとの戦いが終わることすらあるでしょう。しかし免疫機能が落ちていたり暴走したりすると、症状がひどくなるおそれが。同じようにウイルスと接触しても、感染する人と感染しない人、すぐ治る人と重症化する人がいるのは、このためです。

重症化を防ぐカギはサイトカインが握る

新型コロナウイルスは新種のため、まだ全貌は明らかになっていません。世界ではまだまだ感染が拡大している国があるため、ハーバード大学をはじめ最先端の研究をしている世界中の研究室で新型コロナウイルスに関する研究が日夜続けられ、数々の新たな知見が発信されています。私の研究室でも、これまでの分子生物学的手法を活用して解析をし、治療メカニズムの研究を継続中です。

そのなかでわかってきた治療法が、いくつかあります。1つは、細胞内で新型コロナウイルスが転写され増殖するメカニズムにアプローチし、それを阻害する方法です。一時期話題となったアビガンなどは、これに当たります。ほかにも感染自体を抑制する「感染阻害分子」を探索する方法も模索中です。

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