コロナ危機でデジタル化の未来が見えてきた 野村総研の此本臣吾社長が語る課題と期待

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此本臣吾(このもと・しんご)/野村総合研究所代表取締役会長兼社長。1985年東京大学大学院工学系研究科機械工学科修了。NRI入社。グローバル製造業の戦略コンサルティングに従事。2004年執行役員、2010年常務執行役員コンサルティング事業本部長、2015年代表取締役専務執行役員、2016年代表取締役社長、2019年より現職。共編著書に『2015年の中国』『2020年の中国』(いずれも東洋経済新報社)(撮影:尾形文繁)

先進的とされるエストニアの場合、IDカードを居住者全員が持ち、(カードを差し込む)スロットを搭載したパソコンが普及しているので、すぐに自分のポータルにアクセスすることができる。スマートフォンに番号が送られて二重認証でセキュリティを確保する仕組みだ。運転免許証も健康保険証もすべてIDに入っており、政府サービスをこれ1枚で受けられる。

日本の場合はどうやってID(マイナンバーカード)取得を100%に近づけていくか、そこの戦略がない限り、政府部門のデジタル化は進まない。

またぞろ政府が号令をかけて各省庁でデジタル化率何%という目標を設定して、従来、手作業でやっていたいろいろな業務を無理矢理オンライン化していくのだろう。だが、各省庁でデジタル化のノルマを達成しても、住基ネットのように複雑怪奇なものができて、住民にとっては使い勝手が変わらないというおそれもある。

1枚のカードで何でもできないとダメ

国民個人からすると、マイナンバーカード1枚で何でもできるという仕組みにならないと、メリットがない。政府の業務の一部がデジタル化しましたといっても、住民は役所に行って紙で申請するようなことを繰り返しては意味がない。

――国民の側に預貯金口座へのマイナンバーの付番によって資産などをすべて把握されることへの警戒感があります。

国際比較してみると、日本は行政に対する信頼度が確かに低い。戦時中の全体主義へのトラウマ、政府によるコントロールへの不信感が残っていると言われている。情報の預託に対する拒否反応が強い。実際は税務署には把握されているのだが……。

「鶏が先か、卵が先か」の話だが、明確なベネフィットが示せないとマイナンバーカードの取得は進まないだろう。1枚のカードですべての政府サービスが受けられる、そうしたサービスを次から次へとローンチしていけば、雰囲気は変わるかもしれない。

――高齢者はインターネットを使えないという問題もよく言われます。

70代、80代は難しいかもしれないが、60代以下は問題ないだろう。実は北欧でもデジタルデバイド(使いこなせる人と使いこなせない人の格差)の問題はあって、公務員の仕事はそういう人たちを窓口でアシストするというものになっている。日本でもそうしたことができるだろう。

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