日本がデジタル化で遅れる決定的な構造要因 国家・産業・企業における競争戦略を考える

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「スガノミクスの日本創生」としてのデジタル戦略を考えます(写真:Graphs/PIXTA)

菅新政権が2020年9月16日に誕生しました。総裁選のときから「安倍政権の政策を継承する」と明確にうたっていた新首相のこと、大きな政策変更はないものと見られている一方、「スガノミクス」とでもいうべき独自色もあります。

現在、菅政権の目玉として語られているのは規制改革(行革)、コロナ対策(厚生労働)、デジタル庁(IT)の3つですが、規制改革への強い意欲は小泉政権下の新自由主義的な政策を予感させます。

思えば菅義偉首相は総務副大臣として小泉政権を支えていたのです。したがってスガノミクス=安倍政権の継承×新自由主義と位置づけることも可能でしょう。また秋田出身の菅首相は、総裁選を通じて地銀再編にも言及するなど、従来取り組んできた地方創生を明言。中小企業基本法を見直すなど、中小企業改革にも着手します。

デジタル庁に代表される菅政権のデジタル戦略。私自身、本年7月に発足した「デジタル市場における競争政策に関する研究会」(公正取引委員会所轄)9人の委員の1人(座長は東京大学大学院柳川範之教授)を務めていますが、米中メガテック企業の最新動向を参照しながら、私が専門とする国家・産業・企業における競争戦略とデジタルトランスフォーメーションを論じていきます。

「スタートアップのような企業DNA」が成否を分ける

日本のデジタル化は立ち遅れている。従来繰り返し指摘されていたことですが、新型コロナウイルスの感染拡大により、改めてその事実があらわとなりました。とくに給付金申請にまつわるトラブルは象徴的でした。「オンライン申請可」としながらもその実、業務はデジタル化されておらず、FAXが多用されるなど、各自治体は人手による確認作業が余儀なくされました。

筆者もまた、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)、BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)といった米中メガテック企業の先進事例を目の当たりにするたび、日本の遅れを痛感させられてきました。例えば、日本が提唱する「ソサエティ5.0」にしろ、スーパーシティ法案で構想されている「スーパーシティ」にしろ、すでにアリババの本拠地である杭州で実現しています。日本はすでに「デジタル敗者」。残念ながら、それは国内外で十分に認識されているところだと言えます。

なぜ、日本のデジタル化は遅れているのか。さまざまな理由が考えられますが、本稿において指摘したいのは企業、行政、システムという3つのセクターにおける「DNA」の問題です。企業には大企業病が、行政には官僚主義が、システムにはレガシーシステムがはびこっています。レガシーシステムにはITシステムのみならず、社会構造やマインドを含めても構いません。

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