日本がデジタル化で遅れる決定的な構造要因 国家・産業・企業における競争戦略を考える

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ここからわかるのは、市場は明らかに日本の自動車メーカーとテスラを別々のものとみなしている、ということです。日本の自動車メーカーがいまだ旧来型の自動車メーカーであるとするなら、テスラはテクノロジー企業、あるいはクリーンエネルギーのエコシステムを構築している企業です。日本の自動車産業は、生き残りをかけてさらに再編を進めていくことになるでしょう。

○企業創生:総裁選挙期間中から、地方の中小企業の競争力を強化するとの方針が示されています。デジタル化によって競争力を高めていくことが求められています。
○個性創生:アベノミクスの継承と言いながらも「正すべきところは正す」といった発言が聞かれました。その最大のものは「格差縮小」です。とくに地方×中小企業に勤務している人々の所得改善を実行すると思われます。

○デジタルで進化させる:地方×中小企業に勤務している層をケアするといっても、給付金を出すのみでは持続可能性(サステイナビリティー)に乏しいでしょう。しかし菅首相が掲げる理念「自助・共助・公助、そして絆」で掛け算すると、突破口が見えてきます。「OECD世界の地域格差レポート」によれば地域の生産性は「交易可能な産業部門(トレーダブルセクター)をどれだけ持っているかに大きく依存します。ならば地方創生には、デジタルによって地場産業を交易可能な産業分野に転換することが有効になるはず。「交易可能」とは、地方と首都圏、地方と地方をつなげる絆そのものです。

そのような絆が実現するものとして、私は「地方・産業・企業・個人をつなげるデジタル副業・複業市場」を提言します。ここでいう副業・複業は、正規の仕事を持ちながら別の仕事を持つことを意味しています。仕事はどうしても首都圏に集中しがちですが、デジタル化により例えばクラウドソーシングのように副業・複業を選択できる環境がより整えば、地方にいても自分の強みを生かすことができ、所得も伸ばせます。まさしく「まずは自助」が可能な環境が、公助によってできあがるのです。

カニバリゼーションを恐れてはいけない

「カニバリゼーションをすることをせよ」。DXの最先端企業の1つであるアマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、かねてそう語っています。カニバリゼーションとは自社の製品やサービス同士が売り上げを食い合う(共食い)することをいい、一般的には回避すべきものとされます。しかしアマゾンは自社を変革し続けるために、カニバリゼーションをむしろ積極的に行ってきました。Kindleなどはよい例です。

電子書籍は、アマゾン創業以来の書籍通販ビジネスとカニバリゼーションを起こす可能性のあったサービスでしたが、ベゾスはそれを恐れませんでした。それまで書籍部門を任せていた幹部をデジタル部門に異動させ、こう語りました。

「君の仕事は、いままでしてきた事業をぶちのめすことだ。物理的な本を売る人間、全員から職を奪うくらいのつもりで取り組んでほしい」(『ジェフ・ベゾス はてなき野望』日経BP)。日本という国がDXをするにあたっても、それを阻害する既得権益、レガシーを数え上げればきりがありません。しかしそれらを破壊し、刷新することこそがDXの本質です。菅新政権が、カニバリゼーションを恐れず日本のDXを断行する初めての政権になることを期待します。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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