日本がデジタル化で遅れる決定的な構造要因 国家・産業・企業における競争戦略を考える

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裏を返せば、デジタルトランスフォーメーションの本質はDNAの刷新にあります。すなわち、スタートアップ企業のようにスピーディーなDNAを取り戻し、大企業病を、官僚主義を、レガシーシステムを刷新すること。それは、米中のメガテック企業やデジタルトランスフォーメーション(以降、DX)を長年研究し、実務にも携わる中でたどり着いた結論です。

いい例が、アメリカの小売り大手ウォルマートです。非デジタルネイティブ企業としては非常に珍しく、また「世界最大の小売企業」という規模の大きさにもかかわらずDXに成功しかけており、コロナ下においても業績は好調です。ECの台頭により多くの小売業が後退するなか、なぜウォルマートは好調なのか。

もちろん店舗自体のアップデートも進めましたが、なによりの理由は企業DNAの刷新に手をつけたことだと私は考えています。2017年12月、社名変更により「ウォルマートストア」から「ウォルマート」へと生まれ変わったことは象徴的です。CEOは「テクノロジー企業になる」と宣言し、リアル店舗としてのウォルマートストアにこだわらず、ECやその他も含めてビジネスをデジタルシフトしていく、とのメッセージを内外に向けて発信したのです。

カギを握るのは「デジタル庁長官」

あるいはノキアです。かつて「携帯電話といえばノキア」「フィンランドの奇跡」「技術の神童」と称賛されていた同社は、iPhoneなどスマホが台頭すると倒産の危機に追い込まれました。しかし彼らはスタートアップのような企業DNAを取り戻し、見事な復活を遂げました。その過程についてはシラスマ会長の著書『NOKIA復活の軌跡』(早川書房)に詳しく記されています(筆者も解説文を寄稿しています)。

「スタートアップのような企業DNA」と言いましたが、それは企業のみならず、国家がDXを推進するうえでもなくてはならないものです。世界最先端のデジタル国家として日本がベンチマークしているエストニア、世界屈指の技術大国イスラエル、ITを駆使したコロナ対策で高く評価される台湾など、DXに成功した企業の多くが小国であることがその証左です。付け加えるなら、国際競争力ランキングの上位もシンガポールやスイスといった小国が占めています。これら小国はスタートアップ企業に似たDNAを持ち、意思決定も実行スピードも、大国とは一線を画します。

日本がDXを本格的に推進するにあたっては、デジタル庁はもちろん、各産業においても個別企業においても「スタートアップのような企業DNA」が不可欠です。そのときカギを握る存在は、デジタル庁が設置されたのち、その司令塔につく「デジタル庁長官」です。政治家が就任するのか、民間から招致されるかは定かではありませんが、デジタル庁長官はいわば民間企業におけるCDTO(チーフ・デジタル・トランスフォーメーション・オフィサー)。DXを推進する指揮官として、極めて重要な役割を担う存在です。

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