「この模型はいつの放送で使うんですか?」「4日です」「4日……4日?明日じゃないですか!」
番組名は「被爆70年 ヒロシマ・ナガサキは発信する」。確かに、翌日に放送されたのである。
テレビの仕事は、スピード勝負だ。番組テーマの説明を受けてから納品まで、短いときでは1日半だという。それでも、すべての時間を造形に使えるわけではない。大半の時間は、どうやって分かりやすい模型にするかの思考に使われる。ここでは、発注された通りに模型を作るのではなく、番組のテーマに合わせた模型を創造しているのだ。
そして、模型が完成したら収録スタジオへ運び、「ここに立ってこの引き出しを開けて」と、効果的な模型の見せ方の指導も行う。思考から演技指導まで、植松さんはまるで構成作家兼舞台監督だ。この模型を活かすきめ細かな目配りも、植松さんの模型を使った番組と、ほかの模型を使った番組の違いを生んでいる。
人形劇の人形作家だった
植松さんはもともと、小学生が道徳の授業で見るような、人形劇の仕事をしていた。子供たちにわかりやすくものを伝えるために、どんな人形や装置を使ったらいいかを考え抜いてきた経験が、今の模型作りに生きている。
ニュースに関わるようになったのは、今をときめく池上彰さんを一躍メジャーにした「週刊こどもニュース」(NHK)から。最初に作った模型は高速増殖炉もんじゅの核燃料リサイクルを説明するためのものだったという。
それから20年。ニュースは政治も経済も科学もスポーツも扱うので、植松さんはあらゆるジャンルの模型を、猛スピードで作り続けてきたことになる。確かに、使い終わったものから捨てていかなければ、作業場も頭の中も、一杯になってしまうだろう。古くなった細胞はどんどん捨て、新しい細胞を育てながら成長していく生命によく似ている。
その一方で、記憶は途切れない。解説するのは今現在の事象でも、そこに至るまでには歴史がある。国連の話、為替の話、自民党の話の今を切り取るときに、ニュースに触れ続けてきた経験が生きるという。まさに継続は力なりだ。
ところで、模型の世界は、細分化されている。電車にも船にも車にも昆虫にも、その道の「狭いところを深く」追い求める、プロと呼ばれる人たちがいる。一方で植松さんは、どの道であっても、間違いのないものを分かりやすく早く作り続ける、「広く浅く」の作家だ。
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