マンモスと象の模型を作るならば、誰が見てもマンモスと象が区別できる、そして専門家が見ても骨格などに違和感のないものに仕上げないとならない。
これこそが、ニュース解説を支える時事模型の制作に必要な才能だ。何が来ても「興味がない」「自分には関係ない」と言わない人にしか、この仕事は勤まらない。
過去に一度、ユニオンジャックの天地を間違え、逆さにして模型に使ってしまったことがあるという。よく見ないとわからないが、あれにはちゃんと上下があるのだ。
すると、イギリス大使館から放送局へ連絡が入ったという。無論、前向きな連絡ではなかったが、「あ、見てるんだ、と思って嬉しかったですね」と植松さん。今ではほとんど名前を聞かなくなってしまったある小鳥好きの政治家に似せた人形を作ったときは、人相が悪すぎるとクレームが入ったそうだ。やはり、見られている。
粒の表現は難しい
人物も建物も模式図もなんでもござれの広く浅くの時事模型のプロにも、頭を悩ませるテーマがあるという。それは『粒』。素粒子だ。
「原子炉の臨界とか、ビッグ・バン以前がどうとか。そういう模式化できない世界は、CGの人の方が得意だと思います」
とはいえ、スーパーカミオカンデの解説には、オバケという概念を持ち込み、アイデアで乗り切った。ときには「無を模型で表現したい」という要望もあるそうだ。番組制作側には難しい概念だからこそ、手で触れて動かせる模型にすることで、親しみやすく分かりやすくしたいという意図があるのだろう。
ただ、植松さんには分かりやすさへの疑念もある。分かりやすい模型を使った分かりやすい解説で、すべてを分かったような気になってもらいたくはないという。
「現実はもっと複雑なので。模型を使った解説は、あくまで『くすぐり』です」
たとえ話はたとえ話の域を超えないというわけだ。分かりやすいテレビの解説は、事象そのものではなく、事象を学ぶ手がかりを得るためのもの。そう認識すると、テレビを見る目が変わってくる。その背景には何があるのかを考えつつ、模型に凝らされた工夫を楽しみたい。
アトリエを出ようとすると、壁に飾ってある1枚の写真が目に入った。18年間続いた「週刊こどもニュース」の歴代の『家族』が一堂に会した写真だ。「この子が、初代の長女なんですけどね」と植松さん。なるほど。「僕の嫁なんです」「?!」。もちろん出演中にはこれといって何もなかったが、その後の同窓会で意気投合したのだという。仲人はもちろんお父さんの池上さん。継続は力なり、ということだろうか。
(構成:片瀬京子、撮影:尾形文繁)
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