生産性に振り回される人々が抱く「恐怖」の正体

価値を見定められ切り捨てられないかと怯える

このような世の中の見えない新常識とそれに基づくプレッシャーを日々感じているからこそ、「生産性」という言葉の濫用が激烈なほどの反発と怒りを惹起するのである。

2018年に自由民主党の衆議院議員である杉田水脈(すぎた・みお)氏が『新潮45』8月号に寄稿した「『LGBT』支援の度が過ぎる」というタイトルの論考で、「LGBTのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子どもを作らない、つまり生産性がないのです」などと書き、LGBTの当事者団体だけでなく、難病患者や障害者を支援する団体などからも続々と批判が殺到し、同誌が休刊に追い込まれたのはまだ記憶に新しい。

ここには多産=生産性が高い、子なし=生産性が低いという原義を逸脱した当てはめがあり、(経済的な合理性が定める)「正常な者」に比べて能力やパフォーマンスが劣る者はお払い箱にしてもいい、という社会的弱者の切り捨てを奨励するメッセージを読み取ったことは間違いないだろう。

「生産性」と重なる部分も多い「人間力」「突破力」などと称される、判断する側にとって恣意的な解釈を許す紛らわしい人材像に、時代が要請する「価値ある人物」の典型を見出せる。

掛け声の裏にある「コスパのいい」人材モデル

これはいかなる環境にも直ちに適応することができる創造性と協調性を兼ね備えたタフネスであり、新自由主義の砂漠でもポジティブシンキングで乗り切れる超人的な企業戦士像にすぎない。彼/彼女は、例えクビになっても引く手数多で、自力でベンチャー起業を起こして、社会貢献に乗り出したりする。最近しきりと見聞きすることが多くなった「アップデートせよ」という掛け声の裏には、自己責任論が持てはやされる現代において企業にも国にも「コスパのいい」人材モデルがあるのだ。

セネットはこれと似たようなことを言っている。

「新しい人間」は誰にも依存しないことを誇りにし、社会保障制度の改革者はすべて、そうした態度を模範とすべきものと考える。誰もが、自分自身の医療アドヴァイザーや年金ファンドの運用者になるべきだということだ。民間企業がそうであるように、ここでも公的責任は現実にしぼんで小さくなっている。しかしながら、それは厳しい真実から目をそらそうとする態度でもある。不要とされることは依存を生み、福祉の不足は支援の必要性を発生させるという真実から。(前掲書)

これは、一匹狼で生きようとする人々に幸いあれ、とする強者の論理である。

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