生産性に振り回される人々が抱く「恐怖」の正体

価値を見定められ切り捨てられないかと怯える

ここに込められている大きな懸念は、ローリスク・ハイリターンを望む雇用主と取引先で溢れかえる労働市場からの拒絶である。そのような次第でわたしたちは、のべつ幕なしに「生産性という呪い」にさらされている。

自己の業務の効率化を図ることに血眼になり、能力開発に膨大な私費を投じることを厭わず、メンタルも含む健康状態の最適化に余念がなく、家族関係を中心にプライベートの充実にも細心の注意を払う。つまり、全人生を「市場が要求する高次の生産性」に適合するように日夜アップデートしているのである。

その背後には、恐るべきことに「古いバージョンになること」「無価値のレッテルを貼られること」「廃棄されること」への恐れがブラックホールのごとく渦巻いている。「誰かのお荷物になっていないか?」「役立たずと思われていないか?」「すでにリストラ候補に入っているのではないか?」……。

「不要とされる不安」

これをシンプルに「不要とされる不安」と呼んだのは、社会学者のリチャード・セネットであった(『不安な経済/漂流する個人 新しい資本主義の労働・消費文化』森田典正訳、大月書店)。「要するに、<不要>という物理的不安の出現とともに、不安な文化的ドラマの幕があいたのだ。他者の眼前で自分を有益にして、かつ、価値ある人物に見せるにはどうしたらいいか」(同上)。

経済のグローバル化によって雇用や賃金が劣化する中で、労働者にはこれまで以上に恒常的なフレキシビリティ(柔軟性)と学習意欲が求められ、急速な社会変動に伴うでたらめな配置転換と異業種への移行に耐えなければならない。これは過去の言い方にならえば、「潰しが効く」と「自己研鑽」の必須化だ。

そんなにっちもさっちもいかない悪夢から逃れようともがく人々は、高い業績を維持し続けるハイパフォーマーや、副業・起業で高収入を稼ぐ成功者になれなくとも、「市場から必要とされる人材」として確実に残ることを願い、少しでも自身の「生産性」を向上させようと躍起になる。

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