日本の夫は「子育てが情けない」酷評される証拠 共働きでも育児・家事に消極的なケースが多い

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さらに子育てにおける父親の存在が、母親に与える影響も小さくない。これに関しては、柏木惠子・若松素子「『親となる』ことによる人格発達」(『発達心理学研究』第5巻所収、1994)が興味深い報告をしているので、次の図で見ておこう。

父親の育児参加が母親の感情に与える影響(出所)柏木惠子・若松素子(1994)「『親となる』ことによる人格発達」『発達心理学研究』第5巻

父親と息子、母親と娘はそれぞれが密接な関係

この図は、「保育園に送り迎えをすることがあるか」「夜中にこどもが『おしっこ』といったときについて行くか」「離乳食を食べさせたことがあるか」「本を読んであげるか」といった質問をして、育児をまったくしない父親と、よくする父親を同数抽出し、それぞれに母親(妻)の気持ちを問うて得た回答をまとめたものである。

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この図からは母親の育児不安が高いのは、育児参加のない父親のケースだということがわかる。不安を抱えながらの母親一人での子育ては、育児自体にいくつかの問題を与えかねない。例えば、時間が足りなくて不十分なことしかできないとか、思い込みのために1人よがりの子育てになりかねないとかが考えられる。

筆者の危惧は次のようなものである。先に触れた『教育と格差』、『学力格差の経済学』によると、母親と娘、父親と息子は、それぞれが密接な関係にあることがわかっている。同性同士なので相手のことがよくわかるし、問題の起きたときも対処の仕方を考えつく可能性が高い、というわけである。

娘は母親をよく見ているので、母親のようになりたいと思いがちであるし、母親もなにかにつけて娘のことが気になる。同じことは父親と息子の間にも存在している。こういう事実を知ると、父親が育児に参加しないために息子に間違った子育てをしてしまう可能性が考えられる。

橘木 俊詔 京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授

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たちばなき としあき / Toshiaki Tachibanaki

1943年生まれ。小樽商科大学卒業、大阪大学大学院修士課程修了、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。大阪大学、京都大学教授、同志社大学特別客員教授を経て、現在、京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。その間、仏、米、英、独の大学や研究所で研究と教育に携わり、経済企画庁、日本銀行、財務省、経済産業省などの研究所で客員研究員等を兼務。元・日本経済学会会長。専攻は労働経済学、公共経済学。
編著を含めて著書は日本語・英語で100冊以上。日本語・英語・仏語の論文多数。著書に、『格差社会』(岩波新書)、『女女格差』(東洋経済新報社)、『「幸せ」の経済学』(岩波書店)ほか。

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