「82年生まれ、キム・ジヨン」で考える女性の地位 韓国で社会現象になった同名人気小説が映画化

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監督は短編映画で注目され、本作が長編デビュー作となるキム・ドヨン。自身も2人の子を持つ母である彼女は、本作を演出するにあたり「ジヨンの人生をたどりながら、自分探しをする物語。そしてジヨンを取り巻く家族、職場の同僚たちの姿もまた顧みる物語を見せたかった」と語っている。

夫デヒョン役のコン・ユ(左)は、チョン・ユミと3度目の共演となる © 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

韓国では男尊女卑の傾向が残っており、本作主人公の親世代の人たちの間ではまだまだ根強かった。ジヨンは、父親の愛情が、自分や姉のような“娘”よりも、“息子”である弟に向けられていることを敏感に感じている。ジヨンの祖母も、母親に「男の子をもうひとり生んでほしかった。男の子がひとりだけなんてね」と残念そうな顔を見せる。韓国の伝統的な考え方がずっしりとジヨンの身体にのしかかる。

一方、現代は女性の社会進出が進み、若い世代の間では男女平等の価値観が浸透しているが、かといって女性が生きやすくなったわけではない。ジャーナリストの伊東順子氏は、原作小説の解説で「今、韓国社会にはびこる女性嫌悪は、『劣った性』として差別するものというよりは、むしろ『不当に恵まれている』と言って攻撃する」ものに変容していると指摘していたが、その言葉通り、本作の劇中でも男性が「女はいいよな。旦那に養ってもらって。俺も養ってもらいたいよ」と軽口をたたき、それを耳にしたジヨンが傷ついてしまうシーンがある。

女は“特権を持っている者”という意識が強まっている

その根底には、自分たち男は“被害者”であり、女は“特権を持っている者”という意識があるのだという。韓国男性は、徴兵制のために2年のハンディがあるため、「女は軍隊にも行かない。デート費用も出さない。そうやって男たちを不当に搾取している」と感じているのだと伊東氏は指摘する。それは過去の男尊女卑の価値観とはまた違ったものである。

だが、本作で描かれるジヨンの痛みは、韓国人でなくても理解できるものだ。日本でも状況はそれほど変わっていないだろう。たとえば東京医科大学をはじめとした複数の大学医学部が、女子合格者を減らすために、合否判定を操作する不正入試を行っていた。

世界経済フォーラムが発表した男女格差を示す指標となる「ジェンダー・ギャップ指数」では、管理職や議員、閣僚などの男女比において、女性の割合が少ないということで日本は121位という順位をつけた。これは106位の中国、108位の韓国よりも低い水準である。

決して「隣の国の物語だから」とひとごとにできない現実がある。それを裏付けるように、試写会などでひと足先に本作を鑑賞した日本の女性たちから、熱のこもったコメントやメッセージが多数寄せられており、それらは公式ホームページでも紹介されている。ぜひチェックしてもらいたい。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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