経営者127万人「後継者不在」の切実すぎる問題 コロナ倒産回避のための事業承継は待ったなし

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休廃業ならまだましだ。倒産となれば冒頭で紹介したような悲惨な状況が待ち構えている。コロナ禍の今、そうならないようにするためには、事業承継を急ぐ必要があるのだ。

では、事業承継にはどのような手法があるかといえば、大きく分けて6つだ。

最大のポイントは、後継者の有無。まず後継者がいて、それが親族ならば「相続」して株式を譲渡する。親族にはいないが社内に後継者がいる場合には「MBO(役員による買収)」か、社員を昇格させて経営を引き継がせる「内部昇格」のいずれかで承継する。

一方、後継者がいない場合には、第三者に承継するか、できなければ最後は廃業だ。第三者承継には、外部から人材を招いて経営を引き継がせる「外部招聘」と、「M&A(第三者への株式譲渡)」で会社を売却する手法がある。M&Aといえば大企業が対象とのイメージが強い。だが、後継者に乏しい中小企業の事業承継においては、今やM&Aが主流となりつつある。

タイミングが大きな分かれ目

ただ、タイミングを見誤ったり、上手に売却したりしなければ、せっかくわが子のような会社を売却しても、売却価格に大きな差が生じてしまう。

関東地方で中古車販売やレンタカー事業などを展開していた売上高4億円、当期純利益2000万円の中小企業が実際に事業承継したケースで見てみよう。

売却価格の算出方法は少々難しいので、ここでは割愛するが「EBITDAマルチプル法」と「年買法」とで比較した結果、2000万円ほど高かった年買法を使って3億1000万円で売却できたという。

これがタイミングのずれによって、新型コロナの影響を受けて売上高が減少したらどうなるのか。

売上高が4分の1減少すると赤字に転落。資金繰りに窮するようになり新たな借り入れをせざるを得なくなる。そうした状況だから減価償却費の吸収さえ難しくなってしまい、EBITDAマルチプル法では算定不能、年買法だと9000万円になる。

さらに売上高が半減すると、現預金が大幅に減少、追加の借り入れも困難になる。不動産などの資産を切り売りして債務超過ギリギリに。結果、やはりEBITDAマルチプル法では算定不能、年買法でもわずか1000万円となってしまう。つまり、事業承継のタイミングで実に3億円もの差が出てしまうのだ。

だが、中小企業経営者の実に4割がいまだ事業承継を「考えていない」と回答しているのが現実だ。新型コロナで、すでに売上高が減少している企業も少なくないが、収束する気配はない中ではさらに厳しい状況に追い込まれていくのは間違いない。

「財務状況がひどく毀損する前ならまだ高く売却できるが、残された時間は少ない。一刻も早く、事業承継を決断すべきだ」と訴える金融関係者は少なくない。

コロナ禍の今、事業承継は待ったなしだといえそうだ。       

『週刊東洋経済』9月12日号(9月7日発売)の特集は、「得する事業承継 M&A」です。
田島 靖久 東洋経済 記者

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たじま やすひさ / Yasuhisa Tajima

週刊東洋経済副編集長。大学卒業後、放送局に入社。記者として事件取材を担当後、出版社に入社。経済誌で流通、商社、銀行、不動産などを担当する傍ら特集制作に携わる。2020年11月に東洋経済新報社に入社、週刊東洋経済副編集長、報道部長を経て23年4月から現職。『セブン&アイ 解体へのカウントダウン』が小社より24年12月発売予定。

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