彼女が歩数計に依存して歩きまくった真の理由 気晴らしに頼るのは「心の苦痛」からの逃避だ

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根本的な原因と向き合わない限り、気晴らしや注意散漫は治らない(写真:microgen/iStock)
メールやSNS、オンラインゲームなど、私たちの周りには、集中力を乱すものであふれている。本来、仕事に集中しなければならないのに、ついメールを見てしまう。そんな経験を誰もがしているが、この中断は仕事の効率を大きく低下させる。
『最強の集中力』の著者ニール・イヤールは「注意散漫の真の原因は、スマホなどのデジタルデバイスではなく、あなたの心の中の苦痛にある」と指摘する。人は苦痛から逃れるために、気晴らしをする、その考えに基づくと、集中力を飛躍的に高める方法が見えてくる。本書から一部を抜粋・再編集して3回連続でお届けします。

ポケットの中の悪魔

企業は、自社製品がユーザーにとって使いやすく、ためになり、良い習慣を育てる助けになることを願っている。企業が自社製品をより魅力的にするのは、悪いことではない。それは自然の流れだ。

だが、そこにはマイナスの側面もある。哲学者のポール・ヴィリリオは「人間は船を発明したと同時に、船の沈没も発明した」と述べたが、確かに、新たなテクノロジーには未知のトラブルがつきものだ。ユーザー・フレンドリーな製品・サービスについて言えば、使いやすく魅力的と感じるものほど、ついそれに気を取られやすい、という特徴がある。

ハーバード大学で博士号を取得し、イェール大学経営大学院で教授を務めるゾーイ・チャンスは、TEDxの聴衆の前で衝撃的な告白をした。

「今日、ここへ来たのは、私の苦闘の物語を初めてお伝えするためです。2012年3月、私はあるデバイスを購入しました。以来、それは私の人生を破壊し始めたのです」

チャンスはイェール経営大学院で、消費者の行動を変える秘訣を、未来のエグゼクティブたちに教えていた。講座名は「影響力と説得力を自在に操る」。だが、その日彼女は、自らが操られてしまったことを告白した。個人的な実験として始めたものにズルズルとハマり、抜け出せなくなったのである。

チャンスは、自身が教えていた説得のテクニックを駆使した製品を、偶然見つけた。それを自分で試さなければならないと考え、被験者になることにした。その製品が自分の心と体をどのように操るかは知るすべもなかった。

「本当に、本当に、やめられませんでした。そのうえ、それが問題だと気づくまでにずいぶん長くかかりました」と、彼女は当時を振り返る。

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