彼女が歩数計に依存して歩きまくった真の理由 気晴らしに頼るのは「心の苦痛」からの逃避だ

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私と何度もメールをやり取りした後、チャンスは、自分が極端な行動に走った本当の理由を教えてくれた。「歩数計にのめり込んでいた頃、私は人生最大と言えるほどのストレスを抱えていました。マーケティングの新人教授としての職を何カ月も探していて、心が不安定で、非常につらい時期でした。求職中の学者がストレスのせいで体を壊すのは珍しいことではないんです。私も髪の毛が抜け、不眠になり、動悸にも悩まされ、気が狂いそうでしたが、誰にも知られてはいけないと思っていました」

彼女は夫との関係についても密かに悩んでいた。夫もマーケティング分野の教授だったので、同居して共働きするには、夫の大学に彼女がポストを見つけるか、夫婦揃って別の大学に勤めるかしかなかった。さらに厄介なことに、結婚生活は破綻しかけていた。

彼女は行き詰まっていた。「どう頑張っても、結婚生活も仕事もうまくいく保証はないと、悟りました。後から思えばストライブは、努力すれば達成できるものを私に与えてくれたのです」。人生最大の危機を迎えていたその時期に、ストレスを発散する手段としてストライブを利用したと彼女は言い、「一種の現実逃避でした」と認める。

不快な内部要因への対処法を身につける

大半の人は、気晴らしが現実からの不健全な逃避だという不愉快な事実を認めたがらない。しかし、不快な内部誘因にどう対処するかで、何かに健全に集中できるか、それとも、自分をあざむく気晴らしに走るかが決まる。根本的な苦痛と向き合わなければ、次から次へと気晴らしに頼り続けることになるだろう。

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痛みを理解して初めて、それをコントロールし、マイナスの衝動に、より適切に対処できるようになる。

幸い、チャンスはより適切に対処できるようになった。まず、自分が逃れようとしていた内部誘因に焦点を絞り、不快感の原因を突き止めた。結局、夫とは別れたが、今でははるかに良い人生を送っていると言う。仕事では、イェール大学に常勤のポストを得て、今もそこで教えている。

気晴らしや注意散漫はあらゆる行動と同じく、脳が苦痛に対処する方法の一つにすぎない。この事実を受け入れれば、注意散漫を避けるには、不快なことへの対処法を身につけるしかないことがわかる。

(第2回に続く、近日公開予定)

ニール・イヤール 作家、ビジネスコンサルタント

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Eyal Nir

スタンフォード大学経営大学院とハッソ・プラットナー・デザイン研究所(Dスクール)で教鞭を執る。初の著書『Hooked: How to Build Habit-Forming Products』(邦訳『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』、翔泳社)は世界的ベストセラー。作家、ビジネスコンサルタントの傍ら、心理学とテクノロジーとビジネスをクロスオーバーさせた講義をする。また、ハーバード・ビジネスレビュー、テッククランチ、タイム、ザ・ウィーク、インク、サイコロジー・トゥデイなどに寄稿。

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