「ソニーらしさ」の変貌を映す経営者の目立ち方 吉田社長は新しい時代のカリスマとなれるか
吉田氏は5月に、2021年4月1日付で「ソニーグループ株式会社」に社名を変更、エレクトロニクス事業を分離して、グループ本社機能に特化する、と発表した。
具体的には、長期視点に立ち、事業ポートフォリオの管理とそれに伴う財務戦略、相乗効果を発揮できる経営資源の活用、新規事業創造、イノベーションの基盤となる人材と技術への投資、などに集中する。
また、ソニーが約65%の株式を保有する金融事業の持株会社であるソニーフィナンシャルホールディングスを完全子会社化する。金融事業は、エレクトロニクス、エンターテインメントと並ぶコア事業と位置づけており、フィンテック時代に向けソニーの技術を生かす。
まさに、「マネンジメント・コントロール型CEO」ならではの経営戦略と言えよう。吉田氏のもとで「ソニーらしさ」は大きく変わることだろう。平井氏が重視していた「感性と機能を高次元で組み合わせた(スペックだけでなく感性にも訴える)WOWな製品」にとどまらず、「ビジネスシステム」(事業システム)にまで「ソニーらしさ」の範囲を広げることになろう。
ちなみに「ビジネスシステム」とは、加護野忠男・神戸大学名誉教授が提唱した概念で、企業内並びに企業間の協同の制度的枠組みを指す。企業は、製品やサービスの差別化競争の背後で、ビジネスシステムの差別化競争を繰り広げている。ビジネスシステムの差別化はより長期的な競争優位の源泉となり、企業の盛衰に大きな影響を与える。
吉田氏はどのような「奇跡」を起こすか
ご多分に漏れず、吉田改革についても賛否両論の声が出てくることだろう。そのうち、「賛」の比率を高めるには、やるべきことは着実にやり遂げ、いい結果を出し続けるしかない。詰めが甘くない論理思考型経営者であることが完全に証明でき、平井氏とは異なった形で、新たな「奇跡」を起せば、新しい時代のカリスマとして注目されるようになるだろう。
「ウィズ・コロナ」「ポスト・コロナ」の時代に、吉田氏はどのような「奇跡」を起こすのだろうか。
「目立つCEO」が続いたソニーゆえに、オーソドックスなカリスマ幻想は社員に意識的、無意識的両方のレベルで定着していると思われる。そこで、謙虚なサラリーマンCEOであっても、人を魅了する人間的魅力をどう発揮していくかが成否のカギを握る。わかる人が見ればわかるカリスマ(例えば、アナリストだけが称賛する数字の優等生)では、ソニー社員および株主、顧客など、ステークホルダーの幻想に応えられないのではないか。
株主経営重視の流れが強まり、経営リテラシーが高度化していく中で、「経営の人文性」とも呼ぶべき人間的魅力が軽視される傾向にあるようだ。「人間CEO」の匂いを伝え、どのようにして人々の心を揺さぶるか。それは、マスコミ関係者や投資家を前にして、どう振る舞うかというパフォーマンス、プレゼンの工夫ではなく、井深大氏や盛田昭夫氏が得意としていた経営哲学レベルの思考、発信である。
財務諸表には記載されない非財務情報だけに(元)CFOは見逃しがちだが、リモート時代だからこそ、またはCEOが背負う企業の社会的責任(CSR)としても重視しなくてはならないテーマである。秀才の吉田氏ならば、このレベルまで極められる「カリスマCEO」になれるのではないかと期待している。
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