「ソニーらしさ」の変貌を映す経営者の目立ち方 吉田社長は新しい時代のカリスマとなれるか

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リモート(バーチャル)会見のコミュニケーションでは、枝葉が取られ、幹となる本筋の情報を発信し、聞き、確認、質問するという作業で終わる。そのため、ある発言をしたとき、笑みをたたえた、憤りを隠せなかった、声が大きくなった、というような経営者の「芸風」は伝わらない。

このことを割り引いても、「目立つCEO」から「目立たないCEO」への転換は、変わりゆくソニーの企業文化を象徴していると言っても過言ではない。Web会議システムの画面越しに映る落ち着いた静かな経営者の表情が物語っているように、ソニーは、とんがったトップと商品で「目立っていた会社」から、多様な事業に支えられ着実に持続的成長を果たす「普通の会社」へ変貌しようとしているのではないか。

ソニーの企業文化を語るうえで避けて通れない言葉が「ソニーらしさ」である。

かつて、ソニーはトランジスタでトップの座にあったが、しばらくして東芝が資本力にものを言わせ、瞬く間にその地位を奪ってしまった。この現象を見て、評論家の大宅壮一氏がある雑誌で、「ソニーは、東芝のためにモルモット(医学などの実験用動物として使われる)的役割を果たしたことになる」と書いた。

この比喩に当初、井深氏は憤慨したが、後には、「モルモット精神を上手に生かしていけば、いくらでも新しい仕事ができてくるということだ」と今でいうところのベンチャースピリットと捉え、誇りにしていた。

この井深氏の発言に「ソニーらしさ」が集約されている。つまり、人々のライフスタイルを変え、喜びや感動を提供するイノベーティブな商品を生み続けるチャレンジ精神を意味しているのである。同社は「ソニーらしさ」を現在も「ソニーのDNA(遺伝子)」であると強調している。

ソニーは「ソニーらしくなくなった?」

ところが近年、耳にタコができるほど聞いたセリフが「ソニーらしくなくなった」である。こう言う人たちのほとんどは、1979年に発売されたポータブルオーディオプレイヤー「ウォークマン」級の「ソニーのDNA」を具現化したグローバルなビッグ・ヒット商品が現れてこない現象を揶揄している。とくに、“iPod”と“iPhone”でアップルに後塵を拝してから、ソニーに対する風当たりはますます強くなってきた。

しかし、同社は昔から「ソニーらしさ」を常時発揮していたわけではない。他社に先駆け技術開発に成功し製品化したものの、事業としては失敗してしまい、花が咲かなかった事例も少なくない。

古くは、家庭用VTRの標準規格争いで松下電器産業(現・パナソニック)陣営のVHSに負けたベータマックスがある。大賀社長時代、他社に先駆け打ち出したリチウムイオン電池は事業部門ごと村田製作所に売却され、出井社長時代に技術発表した有機ELは、製品として日の目を見ず、韓国メーカーのサムスンやLGにお株を奪われてしまった。

一見「ソニーらしさ」が復活しているように見えても、実は諸先輩がまいた種がいま開花しているというのが実態だ。無から有を生むブレークスルー・イノベーションではなく、改善を積み重ねて結実するインクリメンタル・イノベーションと言えよう。

コロナ禍の巣ごもり需要の恩恵を受け、第1四半期の好業績に大きく貢献したゲーム事業も、元はと言えば、1994年12月に家庭用ゲーム機“PlayStation”を発売し、任天堂の後を追う格好で始めた。これも、大容量を格納できる光ディスクと3Dグラフィックスというオーディオビジュアル事業で培った技術を応用し、任天堂を打倒しようとした「模倣の戦略」であった。

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