「ソニーらしさ」の変貌を映す経営者の目立ち方 吉田社長は新しい時代のカリスマとなれるか

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「出る杭」伝説が今も伝わるとがったイメージの会社だけに、吉田社長や十時副社長が「目立たない経営者」に見えてしまう。だが、吉田氏と面識があるパナソニックの幹部は「平井さんがソニーを復活させたことになっていますが、実質的には吉田さんの力だと見ています」「吉田さんは頭がよく、仕事もできる人ですが、偉ぶらない人当たりのいい紳士です」と絶賛している。

2018年2月、CEOの交代を発表したとき、平井氏も吉田氏を高く評価した。

「2013年12月に(ソニーコミュニケーションネットワーク=現・ソニーネットワークコミュニケーションズ=社長から)ソニーに復職して以来、CFOとしての役割にとどまらず、私の経営パートナーとして、ソニーの変革を一緒に先導してくれました。吉田は戦略的な思考と目標達成に向けた強い意志、そしてグローバルな視座を持った経営者です。多様な事業領域に及ぶ幅広い知見、経験、そして強固なリーダーシップは、これからのソニーを牽引するのに最もふさわしい人物と考えています」

吉田氏は「出る杭」の才能を持ちながら、謙虚で目立とうとはせず、闘争心を露わにしない。その結果、「出る杭」たちとも大きな軋轢を起こさず説得することができる。このような人だからこそ、創業者世代とは異なる企業文化を形成する成熟した大企業・ソニーで、平井社長の名番頭として頭角を現すことができたのだろう。

わかりやすく説明するための例を1つ。不適当かもしれないが、笑い飛ばして読んでもらえれば幸いだ。

吉本新喜劇にMr.オクレというベテラン役者がいる。関西の人なら知らない人はいないぐらいの人気者だ。彼は「やって(い)ない感」の芸風が特長の芸人である。短時間しか出演せず、一言、二言しかセリフを口にしない。それなのに、独特の存在感を示し観客を笑わせる。なぜ、Mr.オクレは受けるのか。

それは、ある意味のその脱力感に人々は、一皮むけば誰でも持っている弱さを隠さない、本音をさらすことをよしとする大阪ならではの大衆の琴線にふれていると考えられる。

吉田氏が持つ「静の存在感」

筆者は、吉田氏から脱力感を感じると言っているのではない。パフォーマンスを抑えた「静の存在感」にむしろ誠実さを感じる。だが、このような見方をする人は少ないだろう。

心理学者のアルバート・メラビアンによると、情報の受け手が、情報発信者の良しあしを判断する基準は、言語7%(言葉の意味)、聴覚(声の大きさや質、話し方)38%、視覚(見た目、表情、動作など)55%という割合であるという。

つまり、ほとんど感覚的要素に基づき、「人の値打ち」を決めている。「人は見た目が9割」「人は話し方が9割」といった類の本がたくさん書店に並んでいるのも、このような先行研究があるからだろう。

このことは多くの経営者が実感している。

あの甲高い声で売り込むテレビ通信販売のスタイルで有名になったジャパネットたかたの創業者・高田明氏は「『目は口ほどにモノを言う』という言葉もありますが、実際には目も、手も、指も、身体も、表情もしゃべります。そういう非言語の力を活用することが、伝える際には不可欠です」という持論を持つ。Web会議システムが普及したコロナ禍以降、この持論をさらに強調するようになった。

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