「ソニーらしさ」の変貌を映す経営者の目立ち方 吉田社長は新しい時代のカリスマとなれるか

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ソニーの企業文化は、かつてとどう変わりつつあるのだろうか(写真:ロイター/Steve Marcus)

コロナ禍の中、お盆(夏季)休暇は、新幹線、飛行機の空席が目立つなど、例年とは異なる光景が話題になった。お盆前に相次いで行われた各企業の「2020年度第1四半期決算発表会見」(報道機関関係者、アナリスト対象)も、これまでとは大きく違った。

リモートにより行われるWeb会議システム会見は、コロナウイルス感染拡大が叫ばれ始めた春先以降、各社が徐々に使い始めたが、今や、画面越しにCEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)が説明し、あらかじめ登録した人が電話で質問するという形式が会見のデファクトスタンダード(事実上の標準規格)になってしまった感がある。

このデジタルな会見に共通している特徴は「淡々と伝えている」点である。そもそも、リアルの会見でも説明を行っているときの話者(経営者)は淡泊に見える。ところが、続いて行われる質疑応答では、少し笑顔になり軽い冗談を言うこともあれば、嫌な質問にはむっとした表情を見せることもある。

ところが、リモート会見では、そのような感情の表出は感じられない。ましてや、質疑応答を事前登録者のみに限定して電話で応じるシステムでは、聞き手によるアドリブ的な突っ込みが十分行われない。

このようなやり取りを経験し、事務的かつ無味乾燥な印象を受けたのは、ジャーナリスト、そして経営学者として長い間、経営者たちとリアルに接してきた筆者だけではないだろう。

ソニーの2020年4~6月期の業績は好調

8月上旬に発表が集中した2020年4~6月期(3月期決算企業の第1四半期)の連結決算では、上場企業が軒並み減収減益、赤字となった。このような状況下にあっても、好業績を発表した企業がある。

そのうちの1社がソニーだ。2020年4~6月期の連結決算(米国会計基準)で、純利益が前年同期比53%増の2332億円と大幅な増益となった。晴れやかな表情をしてもよさそうな結果だったが、今後予断を許されない状況にあるからか、プレゼンする十時裕樹副社長兼最高財務責任者(CFO)の表情は厳しかった。

ソニーと言えば、すぐに頭に思い浮かぶのが存在感の大きかった2人の創業者。技術の語り部である井深大氏と独特の口調の英語で堂々と外国の要人と渉り合った盛田昭夫氏である。

創業者以降も、半導体の礎を築き第3の創業者と言われた岩間和夫氏、元声楽家(バリトン歌手)で芸術家肌の大賀典雄氏、進取の気性に富んだダンディーな出井伸之氏、副会長を終えた後、産業技術総合研究所理事長に転じた中鉢良治氏、元ジャーナリストで同社初の外国人トップとなったハワード・ストリンガー氏、面談した人から「日本語も話せるのですね」と言われるほどネイティブ同然の英語を話す帰国子女の平井一夫氏、といった具合に個性豊かな「目立つ経営者」が続いた。

ところが、画面越しに静かな口調で表情を変えることなく淡々と語る吉田憲一郎社長(CEO)や十時副社長を見ていると、リアルよりもバーチャルな会見のほうが適しているのではないかと思えるほど「目立たない経営者」なのだ。

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