「ソニーらしさ」の変貌を映す経営者の目立ち方 吉田社長は新しい時代のカリスマとなれるか

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「静の存在感」に対し、世の中で注目されている経営者に共通している点は「動の存在感」である。

テレビCMにまで登場しているトヨタ自動車の豊田章男社長。そして、歯に衣を着せぬ発言をして怖いものなしに見えるファーストリテイリングの柳井正会長や日本電産の永守重信会長を見ていると「やって(い)る感」をひしひしと感じる。

だが、どのようなトップもこのような「動の存在感」を実践できるわけではない。   

創業家出身者が会長を務める、ある企業のサラリーマン社長に彼らのパフォーマンスについて意見を求めると、「創業家出身者、創業者はカリスマ性がある。だから、あのように堂々と振る舞えるのでしょうね」と答えた。

「カリスマ」とは、古代ギリシア語で「神の恵みの賜物」の意味する言葉だが、その学術(社会科学)的概念を打ち出したのは、社会学者のマックス・ウェーバーである。その後、リーダーシップに関する経営学の研究が進化しているが、温故知新という視座から、再び、ウェーバーに注目してみる。

ウェーバーは社会を支配する「3つの類型」として、合法的支配、伝統的支配、カリスマ的支配を明示した。合法的とは規則に基づき選ばれる(例:官僚)、伝統的は既存の秩序に基づいて任命される(例:天皇陛下)。そして、カリスマ的はスター性や貴さ(尊さ)を感じられる人(例:「経営の神様」と言われた松下幸之助氏)による支配である。

このうち、合法的支配、伝統的支配が成り立つのは比較的平穏な日常的状況である。そのような状況から脱しなくてはならない、変革しなくてはならないときには、カリスマ的支配が有効となる。まさに、コロナ禍の今は、カリスマ型リーダーが求められていると言えよう。

ウェーバーは「カリスマとは特定の人物が有する非日常的なものとみなされた資質」と捉えた。フォロワーは(周囲の人々=主に社員)、ある人物がカリスマという特別な資質を有しているがゆえに、リーダーになれば特殊な力を発揮すると思う。しかし、その資質に対する客観的基準はない。「カリスマ」と見なされる決定的な条件は、「奇跡」を起こす人物であると認められることである。

「ビジョナリーCEO」となった平井氏

ただし、一時的に奇跡を起こし認められたとしても、その後もフォロワーに対して持続的に幸福をもたらさなければ、カリスマ性は消滅する。最もわかりやすい例が、出井氏が会長兼CEOを務めていた頃、ソニーの社外取締役に就任したカルロス・ゴーン氏(元・日産自動車CEO)である。

出井氏がカルロス・ゴーン氏に社外取締役を依頼した直後にインタビューしたときに「ゴーンは2つ返事で引き受けくれた」と話していた。その頃は、出井氏もゴーンのカリスマ性に期待していたのだろう。ハワード・ストリンガー氏というソニー初の外国人を自身の後任に任命したのも、ゴーンと重ね合わせて見ていた節も無きにしも非ずだ。

ストリンガー氏と英語でジョークも飛ばし合える密な仲だった平井氏は「ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続ける」をミッションに掲げた「ビジョナリーCEO」と言えよう。得意の英語を駆使した海外でも物おじしない高いプレゼン能力と人当たりのいい印象がこの看板に色を添えた。

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