「歴史好き」がいずれ来るコロナ後の時代を語る 出口治明・権丈善一「今は重要な準備期間だ」

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米中対立の行方もアフターコロナの時代の帰趨を握るが……(写真:ロイター)

――外に目を向けると、米中対立の深刻化もアフターコロナの大きな変数になってきています。

出口 米中対立や分断化というのは、確かに活字になりやすい。この10年間くらいを見ても、トランプ現象やブレグジットなどがあり、みんな世界は悪化していると錯覚していた。しかし、『ファクトフルネス』という本が世界で約300万部のベストセラーになったのは、「世界は分断などしていない」「結構みんなが協調してうまくやっているよ」という話だったのだ。世界は複雑で、ジグザグに歴史は進んでいくので、分断の方向に振り子が振れたら、協調の方向にも振り子は振れる。歴史は決して、一方向的に進んでいるわけではない。

象徴的なのは、アメリカのEV(電気自動車)メーカーのテスラだ。この4~6月期のアメリカのGDPは約33%減だったのに、同社の利益は順調で4四半期連続の黒字になった。その主因は中国・上海工場の本格稼働だ。米中対立は、かつての米ソ対立とはまったく違う。米ソの対立は、ベルリンの壁に象徴されるようにヒトやモノの交流がなかった。ところが米中では、ヒトもモノもお互いに行きあっている。

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いま使っているZOOMを作ったのは誰か。エリック・ヤンという1997年にアメリカに出稼ぎに行った中国人の青年だ。米中の関係は、世界のNo.1とNo.2のケンカ、軍事やAI(人工知能)の覇権争いという面はもちろんあるが、「下半身」(経済)ではお互いに結び合っている。そこにさらにトランプ大統領という特殊な個性の要素も入ってきているので、本当の関係を知るには、この3つの方程式を解かなければならない。米ソのようにきれいに上から下までケンカというのではない。読み解くのは結構難しい。

欧州は歴史的な「十分条件」を示した

――コロナによって世界は単純に分断へ進むのではないということですね。

出口 協調の例は、欧州連合(EU)で合意された95兆円の復興基金だ。今までEUのアキレス腱だった財政統合への大きな一歩となるだろう。合意したときは50時間のマラソン会議になったらしいが、コロナ禍という必要条件を、リーダーたちが将来に向けてプラスに転化した十分条件の好例だ。日本の秋入学見送りという悪い例とは対照的だ。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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