「歴史好き」がいずれ来るコロナ後の時代を語る 出口治明・権丈善一「今は重要な準備期間だ」

✎ 1〜 ✎ 104 ✎ 105 ✎ 106 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

権丈 善一(以下、権丈) コロナ禍によって、エッセンシャルワーカーとリモートワーカーとに仕事を分ける考え方が表にできた。相対的にエッセンシャルワーカーのリスクが高まっているわけだが、賃金に対して経済学では、一般に限界生産力仮説、効率賃金仮説に加えて、アダム・スミスが論じた補償賃金仮説というものがある。

権丈善一(けんじょう・よしかず)/慶應義塾大学商学部教授。1962年生まれ。2002年から現職。社会保障国民会議、社会保障制度改革国民会議委員、社会保障の教育推進に関する検討会座長などを歴任。『再分配政策の政治経済学』シリーズ(1~7)、『ちょっと気になる社会保障  V3』など著書多数(写真:尾形文繁)

エッセンシャルワーカーのリスクを賃金でどう補償するかを考えると、市場における自動調整もあるだろうが、医療・介護など公的部門での対応も大きな比率を占めてくる。そのため、将来的には財政との関わりも出てくると考えている。

もう1つ、「リモートワークになると生産性(物的労働生産性)が高まる」と、政府の未来投資会議でも盛んに議論されているが、経済政策との関係でみる場合には、「付加価値労働生産性」で考える必要がある。リモートが増えれば交通費などさまざまなコストが節約され、その節約分はGDPのシュリンクを意味する。これがどう埋められていくのかという話も今後、重要になってくるだろう。シュリンクした経済が相似形で元に戻るとは考えられない。

「必要条件」と「十分条件」で現状を整理する

――リモートワークの拡大は、今後の経済にとってプラス面とマイナス面があるということですね。

出口 今回のステイホームでは、みんながITを活用するなどリモートワークに習熟したことによって、将来の労働生産性が高まるための必要条件が整った。ただし、改革を行う十分条件が必要だ。コロナ禍が終わったら、会社の上司が「みんな早く会社に戻ってこい」と言ったら、結局のところ労働生産性は上がらない。

日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)化は世界に10周遅れで、今回のリモートワーク拡大でもせいぜい5周遅れになる程度だという指摘もある。いずれにせよ、労働生産性の向上は中長期的な可能性としては十分期待できる。

一方で、今年4~6月期のアメリカのGDP成長率はマイナス32.9%と発表されたが、マクロで見たらステイホームは仕事をしないことと同じだから、経済のパイが縮むのは当然だ。今年の世界のGDPがガタガタになることと、今後リモートワークで生産性が上がることは別次元の問題として考えたほうがよい。

権丈 そのとおりだ。そしてさらに将来、GDPが縮小から元に戻っていく過程において、交通関連やオフィスなどへの需要が縮小することによって、その方面ではGDPのパイは完全には戻らないだろう。その縮小分を埋め合わせするような新たな需要が生まれ、そこに生産要素がシフトしていくには、ある程度の時間が必要になるのではないかと思う。シフトを加速する政策を期待したい。

出口 アフターコロナの時代になると、便利だからインタビューは全部リモートになるかといえば、やはり実際に会いたいとか、実際にその場所に行ってみたいといった形で、意外にリアルは強いと思っている。ただし、リモートとのハイブリッド型になるのは間違いない。権丈さんがおっしゃるように、無駄を省いた分が経済全体のシュリンクにつながるが、それで浮いた時間をどう新しいところに振り向けて全体のパイ拡大につなげていくかが重要になる。

次ページ「リアル」が意外に強い理由とは?
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事