「仕事は、5月で辞めると言っていたよね」
そんなメールをすると、強い口調の返信がきた。
「貞夫さんが住んでいるところを見ない限り結婚は決められないって、言いましたよね。仕事を辞めたら、結婚しなかったときに無職になってしまう。生活するためにお金は必要なので、仕事を更新したんです!」
このメールを読んでさらに不安になった貞夫は、その後も、メールで結婚の話題を出すことが多くなった。
すると、結婚にはまったく触れない、世間話のような内容の返信ばかりが来るようになった。
本当に彼女は、結婚する気があるのだろうか。そこで、あるとき、「どんなふうにプロポーズをされたらうれしいか」と聞いてみた。
すると、こんな返信がきた。
「サプライズ的にプロポーズされるのは苦手です。夜景のきれいなレストランで、指輪のケースをパカッと開けたら、そこにダイヤの指輪が入っているようなプロポーズに、私はドン引きします」
この言葉を聞いた貞夫は、貴代が自分の住んでいるところを見に来たとき、帰り際に婚約指輪をサラリと渡そうと決めた。もしもそれを受け取ってくれれば、婚約成立になると思った。
ついに貴代が貞夫の街にやってきた
そして、5月25日に緊急事態宣言が解除され、6月のある日、貴代が貞夫の住んでいる街を見にやってきた。
貞夫は飛行場に車で迎えに行き、まずは自分の住んでいる家を見せ、経営しているオーシャンビューが一望できるモダンなアパートを見せ、2日目の夜は、親族を交えてレストランで会食をした。
2泊3日の滞在が終わり、貴代を飛行場に送った貞夫は、計画を実行した。搭乗待ちをしているときに小さな箱を貴代に差し出して、言った。
「はい、これ」
それは、指輪が入っていることが一目瞭然でわかる箱だった。すると、貴代がボソッと言った。
「マズい……」
しかし、その小箱を受け取ると、自分のバッグの中にスッとしまった。
その夜、都内の家に帰った貴代からメールがきた。
「箱を開けたらダイヤの指輪が出てきて、お母さんが、『婚約指輪なんじゃないの?』と言ってるんだけど」
「僕はそのつもりで贈ったよ。貴代さんの薬指を見たときに、僕の小指と同じくらいの太さかなと思って買ったんだ。そこのブランドは保証書を持っていけば、全国どこの店でも無料でサイズ直しができるそうだよ。保証書は僕が持っているから、サイズを直すときは言ってください」
すると翌日、こんなメールがきた。
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