続いてのブレイク要因は「TikTok起点」でのヒットであること。 ビルボード・ジャパンのサイト記事「博報堂 研究開発局による『音楽ヒット予想研究Vol.4』」の中で、博報堂研究開発局研究員・谷口由貴氏は、YOASOBIに加えて、瑛人、yama、Rin音という、言わば「上半期のブライテスト・ホープ候補」たちの作品について「TikTok起点でのヒットであるという点」が共通しているという。
「TikTok起点」のヒットとしては、「♪ドールチェ・アーンド・ガッバーナー」の奇妙な音韻で知られる瑛人『香水』が有名だが、YOASOBIも含めて、より大きなムーブメントになっているようだ。同記事によれば、YOASOBI『夜に駆ける』についても「TikTok再生指数急上昇の直後にストリーミングチャート指標も上がり幅が大きくなっ」たという。
また同記事では、「TikTok起点型ヒットの鍵」を、(「弾いてみた/歌ってみた」動画などで)「参加したくなる“余地”」と(歌詞に)「共感をつくる”余白”」だとしているのだが、このあたりに密接に絡んでくるのが、以下に述べるYOASOBIならではの「特異な音楽的構造」である。
「参加」性と「共感」性が醸成されるコード進行
その音楽的特徴を一言で述べると「心理的距離を縮めるコード進行」となる。もちろん、心理的距離を縮めた結果として、先の「参加」性と「共感」性が醸成される。
具体的に言えば、YOASOBIの楽曲には、以下のコード進行が多用されているのだ。
※キーをC=ハ長調に移調。
※メジャーセブンス、マイナーセブンスなどの付加的なテンションノートを省略して簡略化)
これは、マキタスポーツ氏が「未練進行」と名付けているセンチメンタルな情感(=未練がましさ)を醸し出すコード進行で、私が氏と出演しているBS12トゥエルビの音楽番組『ザ・カセットテープ・ミュージック』(毎週日曜21時~)では、何度も解析を試みているものだ。
以下、少し細かくなるが、YOASOBIの各曲で、どこにこの「未練進行」が潜んでいるかを示してみる(が、音楽に詳しくない方やYOASOBIを未聴の方は、読み飛ばしていただいて構わない)。
歌い出しから「未練進行」が多用され、楽曲の骨格を成していると言っていい。併用されるのは、こちらも日本人好みの「F→E7→Am→C7」(『ザ・カセットテープ・ミュージック』で『勾玉進行』と呼んでいるもの)。
歌い出し「♪聞こえた言葉は『好きだよ』」の後の間奏で「未練進行」が現れる。またキャッチーなサビ=「♪本当に」から「♪今も」、「♪もうちょっと」から「♪君からの言葉」で、「未練進行」が炸裂する(過剰な表現だが、まさにそんな感じ)。
Bメロ=「♪知りたくないほど」~「♪呑みこまれたの」が「未練進行」。またサビでもこの進行が2回繰り返される。
サビの「♪僕らは何回だっけきっと」からと「♪仕方がないよきっと」からが「未練進行」。他のパートでも「未練進行」が多用され、楽曲の骨格を成している。
と、細かく見てきたが、とにかく「F→G7→Em→Am」という「未練進行」が、これでもかこれでもかと多用されるのである。「YOASOBI進行」と言い換えてもいいくらいだ(さらに細かくなるが、YOASOBIの場合は「Fmaj7→G7→Em7→Am7」とセブンスを加えることで、より情感を増している)。
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