6人家族で「1週間の食費は1万円」極限の食生活 野菜はほとんど買えず「鶏胸肉」がたまの贅沢

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またしても生活保護を利用することへのスティグマ(社会的恥辱感)である。本連載でも何度も指摘してきた。コードレスイヤホンは補聴器かもしれないし、バッグはコピー商品の可能性もある。そもそも生活保護費を何に使おうが基本は個人の自由だ。一部とはいえ、医療サービスを提供するスタッフたちの無知と偏見ぶりに暗澹たる気持ちになる。

シュウゴさんは生活保護の窓口担当者の対応について「追い返されたわけではない」と理解を示す。しかし、実質的なDV被害者に対して加害者側に扶養照会をかけるというのは事実上の「追い返し」である。不当に申請を受け付けない「水際作戦」の中でも相当に悪質なケースといっていい。

また、そのほかの福祉制度について、シュウゴさん「妻のソーシャルワーカーから『要介護度が低いので、介護保険は利用できない』と言われた」と説明する。障害者手帳と障害年金については対象になること自体、よく知らないようだった。

介護保険が使えるのは40歳以上である。妻は30代なので、介護度にかかわらず制度の利用はできない。ソーシャルワーカーの説明か、シュウゴさん夫妻の理解のどちらかが誤っていると思われるが、いずれにしてもシュウゴさん一家は、国や自治体がさまざまに用意したサービスをほとんど利用できていないということになる。

シュウゴさんの知識や情報が不足しているというよりは、行政側の不適切な対応や担当者の説明不足が問題なのではないだろうか。せっかくメニューがあっても、注文できない“画餅”では意味がない。

希望はただ1つ「家族が一緒に暮らすこと」

取材が終盤にさしかかったとき、シュウゴさんから「記事には批判的な感想やコメントも来るのですか」と聞かれた。中傷やバッシングを懸念している様子だった。そしてシュウゴさんはこう続けた。

「社会や政治に不満を持っているわけじゃない、ということをちゃんと書いてください。妻を入院させて父親ががむしゃらに働けばいいとか、子どもを施設に預けて生活を立て直すべきだとか、世間からは言われると思うんです。(それをしないのは)自分や妻のわがままだし、これまでの私の判断が甘かったということは、よくわかっています」

シュウゴさんの希望はただ1つ。「家族が一緒に暮らすこと」。

生活に困窮する人が世間の顔色をうかがい、バッシングを恐れ、先んじて自らを批判してみせる──。シュウゴさんの懸念を杞憂とはいい切れない、社会のいびつさを思った。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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