無料サービスをバカにする人が知らない稼ぎ方 絶対数やデータを押さえ長い目で戦えば勝てる

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ただし、いくらクラウド型にしてコストを抑えているとはいえ、収益源もなくフリーで提供できるわけはない。その収益源は、製薬会社などからの広告費や、高機能版を利用するプレミアム会員からの課金収入があるが、それだけにとどまらない。

収集した大量の医療ビッグデータを活用し、それを匿名加工したデータベースを、製薬会社や医療機関に有料で提供したり、医療分析ソリューションなどを提供したりして収益を得ているのである。

そして、電子カルテはいわば規格だ。ほかの病院との連携、転属しても慣れたソフトウェアが使用できる、ビッグデータからの意思決定支援アドバイスをもらえるなど、ユーザである医者が増えれば増えるほど医者1人ひとりの効用が増加する。そう、ネットワーク効果が働いているのである。

一見すると、電子カルテのような高額なものをフリーにして、利益が出るわけがないと思いがちだ。しかし、あえてフリーにするのが困難そうなところをフリーにし、ネットワーク効果によって市場で大きなシェアをとる。

そのうえで、ビッグデータを販売し、ソリューションまで提供することで、儲けているのである。

必要なのは長い目でビジネスを考えられる風土

ここまで、「ネットワーク効果」「フリー」「データ」を組み合わせて相乗効果を生み出し、「儲ける」メカニズムと策を見てきた。しかし、これらを組み合わせれば必ず成功し、すぐに利益が出るのかというと、そのようなことはもちろんありえない。

日本国内でアクティブユーザ数4500万人以上、世界では3億人以上を誇るツイッターを例に考えてみよう。

ユーザ間に強いインタラクティブ性を持たせることで、「ネットワーク効果」を働かせている。そして、ユーザは無料ですべての機能を使うことが可能な「フリー」なモデルだ。データも広告のターゲティングに用いたり、他社に販売したりすることで収益をあげている。まさに、「ネットワーク効果」「フリー」「データ」の3つで巨大化したサービスである。

そのように「誰でも知っているサービス」であるツイッターだが、実は近年まで赤字続きであったことをご存じだろうか。図2は、2010~2017年における、ツイッター社の営業利益率とユーザ数推移を描いたものである。

図2 ツイッターのアクティブユーザ数と営業利益率推移(出所:ツイッター社のIR資料より筆者作成)

この図を見ると、早期に大量のユーザ数を抱えているにもかかわらず、2016年まで大きな赤字を出し続けており、2017年になってやっとわずかに黒字に転じていることがわかる。ツイッターは2006年に誕生したサービスであるので、実に黒字化まで10年強かかっているといえる。

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