無料サービスをバカにする人が知らない稼ぎ方 絶対数やデータを押さえ長い目で戦えば勝てる

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例えば、フェイスブックが最初から月額500円の有料サービスだったらどうだろうか。おそらくよほどフェイスブックに期待を寄せる一部のディープなユーザしか登録しようと思わないだろう。その結果、フェイスブックはほとんど人が集まらないサービスとなり、魅力もないので、やがてディープなユーザですら離れていくことになる。

このため、最初に一定数の顧客を確保することが重要となるわけだが、その肝となるのが消費者の参入コストを減らすことである。そして、「フリー」はその参入コストを極限まで小さくする戦略にほかならない。

「フリー」と「ネットワーク効果」を有機的に組み合わせ、最初のユーザを上手く獲得する。そして普及率がクリティカル・マスを越えたとき、抱えているユーザ数そのものがサービスの価値となり、他の追随を許さず、独り勝ちとなるのだ。

そして、「フリー」と「ネットワーク効果」の組み合わせで市場の大きなシェアをとることは、この情報社会において売り上げだけでない大きな意味を持つ。

そう、その市場における消費者のデータの大部分を自社だけで保有するということを意味するのだ。これは、ビッグデータによる効率化、サービス向上につながり、さらに勝利を強固なものとしていくだろう。

フリー×ネットワーク効果×データは普遍的な勝利戦略

「製品・サービスの一部を無料で提供して市場シェアをとるような戦略は、一部のITサービスでしか採れない」と考えるかもしれない。確かに、コストの安いものでないと、「フリー」で多くの人に提供するのはためらわれる。

そればかりか、せっかく有料で提供できる製品・サービスのビジネスチャンスを逃してしまったり、すでに提供している製品・サービスの競合になったりする可能性もある。このように自社の製品が他の自社製品の需要を奪ってしまうことを、経営学では「カニバリゼーション」(共食い)という。

しかし、高価かつ高度なシステムであっても、ビジネスモデルを上手く設計すれば、フリーによって成功を収められることがわかっている。

アメリカの電子カルテ企業プラクティス・フュージョンは、「無料クラウド型電子カルテ」を武器に急速に利用者を増やし、1億件を超える患者のデータを保有するに至った企業である。

多くの電子カルテシステムの導入費用が今でも10万~数百万円、運用費用も数万~数十万円であり、プラクティス・フュージョンが本格的に市場参入した時期はさらに高かったことを考えると、無料というのはまさに破格であった。

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