「コロナ第2波」日本に決定的に足りない対応策 従来の感染症法に頼っていては限界がある

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そうなるとPCR検査に頼るしかないが、日本の検査能力は、中国の1日378万件、アメリカの50万件はもちろん、ドイツの18万件、フランスの10万件を大きく下回る。この検査能力の低さが、A君が検査を受けてから結果を知るまでに2日間も待たねばならなかった理由だ。検査体制が貧弱なため、検査を待つ検体が「渋滞」しているのだ。

これこそ、日本が第2波の抑制に失敗した原因だ。社会活動を再開すれば、感染者が増加するのは日本に限った話ではない。レムデシビル、デキサメタゾン以外の治療薬、ワクチンが開発されていない現状では、感染者を早期に診断し、隔離(自宅、ホテルを含む)するしか方法がない。そのためにはPCR検査体制の整備が重要だ。

世界は、どのような対応をとっているだろう。中国・北京市では、市内の食品卸売市場「新発地市場」で感染者が確認された6月11日以降、検査の規模を拡大し、1日当たり100万を超えるサンプルを処理した。

北京市の発表によると、感染発覚以降、7月3日までに合計1005万9000人にPCR検査を実施し、335人の感染が確認されている。北京市の人口は約2000万人だから、およそ半数が検査を受け、陽性率は0.003%だ。7月4日、終息宣言が出ている。

感染拡大が続くアメリカでも対応は変わらない。ニューヨーク州は7月1日に配信したメールマガジンで、「すべてのニューヨーク州民は州内に存在する750カ所程度の検査センターで、無料で検査を受けることができる」とアナウンスしている。ニューヨーク州の人口は約1950万人。人口2.6万人当たり1カ所のPCR検査センターが存在することになる。

日本ではPCR否定の声が小さくない

ところが、このことは日本国内ではほとんど報じられない。PCR検査の必要性を否定する報道まであり、感染症の専門家による発信もある。

彼らの主張でユニークなのは、PCR検査は擬陽性が多いと強調することだ。尾身茂・コロナ感染症対策分科会会長は、擬陽性を1%として議論を進めている。

いったい、どういうことだろうか。感染率が1%の1000人の集団を、感度(検出率)70%のPCR検査でスクリーニングするとしてご説明しよう。

この集団の本来の感染者は10人だ。ただ、検査の感度が70%だから、診断されるのは7人になる。つまり、3人を見落とす。これは前述したとおり、PCR法の限界だ。

一方、擬陽性が1%出るため、本来感染していない990人のうち1%が誤って陽性と判断されてしまう。その数、9.9人だ。この結果、陽性と判断されるのは16.9人だが、このうち本当の陽性は7人、つまり陽性と判断される人のうちの約4割ということになる。陽性と判断されても、半分以上は間違いだ。この理屈を聞けば、厚労省や尾身氏らの主張はもっともらしく聞こえる。

次ページでは、どうして世界でPCRの活用が進むのか?
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