「コロナ第2波」日本に決定的に足りない対応策 従来の感染症法に頼っていては限界がある

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これは今に始まった話ではない。日本の感染対策の宿痾(しゅくあ)といっていい。コロナ対策は感染症法に基づいて実施されている。この法律では、感染拡大を防ぐため、感染者が確認されれば、濃厚接触者を探し出し、検査を受けさせることが規定されている。積極的疫学調査といい、実施するのは感染研と保健所、地方衛生研究所だ。その費用は公費で賄われる。

実は、この仕組みは一般の保険診療とはまったく異なる。保険診療では、医師が必要と判断すれば、その検査を実施することができ、費用は保険および自己負担で支払われる。コロナ流行当初、PCR検査の基準を「37.5度4日間」と定義して、多くの「PCR難民」を生み出したのは、そもそも積極的疫学調査が国内の感染者を診療するために設計されたものではないからだ。

明治に作られた伝染病予防法に始まる国家が感染者を見つけ、隔離するという思想に基づくものだ。1974年に野村芳太郎監督が映画化したハンセン病患者親子の悲哀を描いた松本清張の名作『砂の器』の世界と同じである。当時、伝染病対策を担当したのは内務省の衛生警察だ。感染者を強制隔離し、自宅を封鎖した。この考え方が今も生きている。

クラスターの「予防」には無頓着

従来の感染症法対策は、クラスターが発生すれば、徹底的に「治療」するが、クラスターの「予防」には無頓着だった。諸外国が重視する院内感染防止のため医師や看護師、あるいは介護士や、社会的弱者としてホームレスなどへの対応が感染症法で規定されておらず、公費で検査費用を負担できない。

この結果、PCR検査数は伸び悩み、コロナ感染は拡大した。真夏の北半球で、コロナ感染が拡大している先進国はアメリカ以外には日本くらいだ。欧州やカナダ、さらに韓国や中国は抑制に成功している。

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第2波を抑制するには早急に感染症法を改正する必要がある。そうしなければ、公費で検査ができない。予算措置でやれる範囲は限られている。ところが、厚労省にその気はなさそうだ。無症状者への検査は不要としているのは前述のとおりだ。これでは日本はいつまでも感染症後進国のままだ。いまこそ、国民目線で感染症対策を見直したほうがいい。オープンな議論が欠かせない。

A君も2日間のインターンだったが、自分なりに考えるきっかけとなったらしい。高熱で病院を受診した際、「PCRを繰り返し受けさせてほしい」と訴えたそうだ。もちろん、感度が低いからだ。主治医からは「規則でできない」と言われたそうだ。A君はめげない。新学期が始まると、学内でPCR検査のあり方を議論する。このような人材が蓄積すれば、日本の感染症対策は変わる。コロナが、そのきっかけになればと願っている。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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