水曜日の昼頃、A君にLINEで連絡したところ、「37.5℃まで下がって、少し楽になった」と返事があった。解熱剤の影響もあるだろうが、これはいい徴候だ。発症翌日に解熱するのはコロナでは早すぎる。抗生剤が効いたのだろう。主治医の見立てどおり、コロナではなく、扁桃腺炎の可能性が高い。
ただ、それでも安心はできなかった。コロナはどんな臨床像も取りうる。万が一、PCR検査が陽性だった場合に備え、予定を調整した。面談者には「学生が発熱し、コロナの可能性がゼロではない」と伝え、3メートル程度の距離をとって話をした。
その日は体に熱がこもる感じがして、何度も体温を測った。36.5℃程度だったが、1回だけ37.1℃を記録した。体温計も時に測定誤差が出るのを初めて知った。
A君から「PCR検査が陰性でした」とLINEが入ったのは、木曜日の午後だった。本人も安堵しただろうが、私も胸をなで下ろした。彼の発熱を知ってから、44時間後のことだった。
クラスターと認定されれば風評被害も
この間、いろいろなことを考えた。私は51歳、自分が罹患しても、おそらく命を落とすことはない。ただ、私やスタッフは「濃厚接触者」だ。もしA君がコロナに感染していれば、うつっていてもおかしくない。集団感染でクラスターと認定される可能性もある。メディアで報じられれば、風評被害も被るだろう。
コロナは感染者だけでなく、周囲にもさまざまな影響を与える。医師ではなく、濃厚接触者の立場になれば、コロナ対策の見え方も変わってくる。そして、早急に改善すべき点が多々あることを痛感する。
私が感じた最大の問題は検査してから結果がわかるまで時間がかかりすぎることだ。現在、医療機関でコロナのPCR検査を受けた際、陽性の場合には48時間以内に結果を伝えることになっているそうだ。A君は陰性だったが、44時間を要した。
実はPCR検査自体には、そんなに時間はかからない。流行当初、5時間程度を要していた検査時間は、今や1時間程度まで短縮している。7月23日には、神奈川県衛生研究所と理化学研究所が共同開発したスマートアンプ法を用いたPCR検査では、検査全体で1時間程度しかかからない。
コロナのパンデミックによりPCR市場は急拡大している。世界中で技術革新が進行中だ。英科学誌『ネイチャー』は7月17日号で、「パンデミックを終焉させることに役立つ新しいコロナウイルス検査の爆発的な発展」という記事を掲載した。この記事では、PCR法やその亜型であるLAMP法の発展だけでなく、遺伝子編集技術であるCRISPR法を用いた新法の開発が進んでいることなどを紹介している。
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