《財務・会計講座》NPV(正味現在価値)とは何か?~超過利潤の源泉としての競争優位性

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 もしも、ある市場に商品を供給している企業が、投資家が要求する適正なリターン以上にキャッシュフローを生み出していれば、企業は投資家から資本の追加供給を受けて生産規模を拡大することが可能となる。この場合、生産の拡大を通じて市場全体の供給が増大し、市場価格が低下していくことになる。最終的には、市場全体として投資家に(市場のリスクの大きさに見合った)適正なリターンのみを返還できる水準まで商品の市場価格は低下していくことになる。これが経済学でいうところの「ゼロ経済的利潤」、「中長期的に商品の再生産が可能な最小限のレベルの利潤」のファイナンス的な意味である。

 つまり、完全競争下の投資家に対する利潤キャッシュフローの利回りは資本コストであるWACCと等しくなる。事業の利回りと資本コストが等しいのであるから、NPVはゼロとなる。完全競争状態における事業収益率とは、その事業のリスクに見合った利回り(割引率)であり、市場における典型的な企業のWACCであるということである。

●「完全競争」の条件を崩す競争優位性
 次に、上記の完全競争の5条件の一部を緩和してみる。例えば、「(4)平等なアクセス」条件において、ある特定の1社のみが商品の生産にかかわる特許を有しており、他社は特許を使えず市場に当該商品を全く供給できない状況を考えてみよう(同時に完全競争条件の(1)と(5)も成立しなくなる)。このような状態は「独占状態」と呼ばれており、市場で形成される商品価格は上記の「完全競争時の均衡価格」を大きく上回る水準で決定される。

 この独占生産企業は、どの程度の数量の商品を生産して市場に供給するかを自分で決定できる。それでは、どこまで商品を生産して市場に供給するかというと、商品を1個追加生産して販売した場合に増加する収入(これを限界収入という)と商品を1個追加生産した場合に増加するコスト(これを限界コストという)とが等しくなる数量までとなる。なぜならば、この水準以下の生産量では限界収入は限界コストを上回るため、独占企業にとって追加生産・販売したほうが利益は多くなる。一方、これ以上の生産水準となると限界コストが限界収入を上回ることなり、生産を縮小したほうが利益は大きくなるからである。

 このような均衡価格は完全競争時に比べ高くなり、一方、均衡供給量は小さくなる。同時に、販売価格は平均生産コストを上回ることから、完全競争下の適正利潤(即ち、経済的利潤がゼロの状態)を大きく上回る水準の利潤が発生する。このような超過利潤を「独占利潤」と称する。なぜ、このような超過利潤が発生するかは明白である。独占企業は特許によって生産リソースを独占し、他社による市場への新規参入を阻止できるからである。他社は、この市場で独占企業がいくら儲けていようと、生産に必要なリソースが特許で守られており入手できない以上、商品の生産はできず、市場価格よりも安い価格を武器に市場参入することは不可能である。

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