プロセスにかかわることが、商売の価値になる
この地域に対する誇りを自らの手で得るプロセスが、「モノを売る」という点においても、新しい価値を生み出します。
「このハチミツは、銀座のバーやクラブなどでも使われています。バーテンダーやクラブママも直接、ハチミツの採取にかかわっている。そうすると、お客様の目の前で『ハニーハイボール』を作りながら、このミツバチが銀座の街の環境を作っているストーリーを自分の言葉で語れる。これは銀座のお店に来るお客様にも価値になるのです」
モノがあふれた時代に、「ストーリーを語る」のはひとつのキーワードになっています。しかしながら、多くの場合、ここで課題にぶつかります。そもそも商品にストーリーがない、もしくはストーリーに対する実感を売り手が持てないという課題です。売り手が、商品に関連したストーリーを情報として話しても、実感を伴っていなければ、ストーリーの価値はなかなか伝わりにくいものです。
その点で、自らの手でハチミツを採るほど、実感の伴うストーリーはありません。それを可能にするという意味で、地産地消ほどストーリーマーケティングとして有効なものはないと言えます。
さまざまな出口商品が地域ブランドを作っていく
一人ひとりの口で語られるストーリーが、さまざまな出口を持って集合体になると、街のブランド商品へと徐々に進化していきます。
「銀座でただハチミツを作るのではもったいない。銀座は職人の街。だから、その技でこのハチミツを商品にしてもらおうと思ったのです」
この銀座ハチミツには、「銀座で消費される」という大原則に基づいて商品化がなされていきました。実際に、銀座ハチミツはカステラの老舗・銀座文明堂で「銀座はちみつカステラ」になり、銀座のクラブやバーでは「銀座ハニーハイボール」になり、また銀座ライオンではミツバチから採れた酵母が「銀座ブラウンビール」になりと、地に足がついた銀座ブランド商品が増えていっています。
銀座ハチミツの消費を銀座内に限ってしまうのは、ビジネス面では強い制約になる可能性があります。確かにビジネスとして消費量を急拡大させたいのであれば、銀座ブランドを前面に出しながら、銀座外で売る戦略も考えられます。しかし、最初からビジネスとして安易な道を選ばずに、銀座内での消費というルールを守ってきたのです。
強いブランドには明確なルールがあり、そのルールがブランドにアイデンティティを作ります。銀座内でしか販売しないという強いルールが、「銀座の街を作る 商品=銀座ハチミツ」というイメージを作り、銀座の代表的な商品へと変化していくのです。これが少しずつ銀座ハチミツが増えていった理由でもあります。
銀座ハチミツも次のチャレンジが始まっています。銀座の中で認知度を高めていっている中で、東京の牛乳や被災地支援などの社会的課題を共有できる相手とのコラボレーションも少しずつ始まってきているのです。
このようなブランド化の段階を踏むことで、価値の高い「銀座ハチミツ」ブランドとして、銀座外にも広がっていくのです。
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