「劇場公開か配信か」で揺れる映画界のジレンマ 配信優先の作品が増えれば映画界は自滅する

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多いのは②の配信に切り替えるケース。4月24日公開予定だった『ホドロフスキーのサイコマジック』は、劇場公開が延期され、当初の公開予定日から配信を開始した。『精神0』も公開予定日の5月2日より配信のみでスタートした。さらに、ディズニーの大作アニメ『スパイ in デンジャー』は5月22日の公開予定だったが、7月10日からの配信のみに転換。また、6月5日に公開予定だったアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』は、劇場公開日が見通せない中、6月18日からNetflixでの配信に舵を切った。

作品を世に出し、製作費を回収しなければ次の作品に進めず、会社の存続自体も危うくなる。映画館がクローズし上映する場所が失われる中、いずれも生き残りをかけた苦渋の決断だったことだろう。

そうしたなか、映画界の大きな注目を集めたのが映画『劇場』だ。当初、300スクリーン規模で4月17日より公開予定だったが延期になり、この7月17日から20スクリーンほどの劇場で公開すると同時にAmazon Prime Videoでも配信することになった。これまで劇場と同時配信した邦画作品は単館系のものがほとんどだったが、大規模公開予定の作品が同時配信に踏み切ったことで映画界では大きなニュースになっている。

ハリウッドでも劇場か配信かという議論が巻き起こっている。4月には、映画館がクローズしているなか、ユニバーサル・ピクチャーズが劇場アニメ『トローズ・ミュージック☆パワー』を配信リリースしたことが物議をかもした。さらにソニー・ピクチャーズはトム・ハンクス主演の最新作『グレイハウンド(原題)』を、当初6月の劇場公開予定から配信のみのリリースに切り替えた。

異なる劇場側と作り手側の思惑

インディペンデント作品だけでなく、メジャースタジオの大作映画においても配信へのシフトが目立っていることが注目される。一方、クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』は、アメリカでの公開日が3度も延期されたが、監督の強い意志から映画館での上映を前提に調整が続き、8月の劇場公開が予定されている。

映画ジャーナリストの大高宏雄氏は、こうした状況について「映画館での鑑賞を前提に作られた作品の同時配信は残念。しかし、製作費のリクープ(回収)のために関係者が全員納得しているのならば、外野が文句をいうことではないだろう。ただ、『劇場』は実質的な配信公開で、ほかの公開延期になった作品が、この流れに追随していくことを心配している。配信を優先する作品が増えれば、映画界は自滅の道を行くしかない」と語る。同時配信に一定の理解を示す一方で、映画文化を育んできた場である映画館の衰退を、映画界の危機として捉えている。

そうはいってもこの時期の映画館での新作公開は、製作者サイドからすれば、回避したいのが本音だろう。実際、『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』や『名探偵コナン 緋色の弾丸』といった興行収入100億円も狙えるような大作が公開時期を1年延期することを決めた。また、公開時期を未定のままにしている期待作はかなり多い。

反対に「映画館の経営」という観点で見れば、新作の公開は不可欠だ。そうした思惑の違いがある中、いくつかの配給会社があえて新作公開に踏み切っている。6月12日公開の『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(配給:ソニー・ピクチャーズ)、6月19日公開の『ドクター・ドリトル』(配給:東宝東和)、6月26日公開の『ランボー ラスト・ブラッド』(配給:ギャガ)、『ソニック・ザ・ムービー』(配給:東和ピクチャーズ)の4本の洋画がその代表格だ。

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