「劇場公開か配信か」で揺れる映画界のジレンマ 配信優先の作品が増えれば映画界は自滅する

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いずれも全国300スクリーン規模で公開され、「希望する映画館にはすべて配給する」という方針をとった作品もある。大高氏は「大きなマーケット向けの新作が求められているなか、配給会社はリスクを背負ってよく出した。多くの映画館が感謝している。興行収入は、通常の5〜7割程度にとどまりそうだが、映画界にとっては新作を公開しているアピールにもなる。この4作の意義はとても大きい」と高く評価する。

邦画でも早期に劇場公開に踏み切った大規模作品がある。それが7月3日に公開された大森立嗣監督、長澤まさみ主演の『MOTHER マザー』だ。全国200スクリーンほどの公開となり、緊急事態宣言解除後の邦画実写としては、最大の公開規模になった。

全国300スクリーン規模で公開される『今日から俺は!!劇場版』©西森博之/小学館 ©2020「今日から俺は!!劇場版」製作委員会

社会性の強い骨太の作品ではあるが、公開前にはテレビCMや新聞一面広告など、宣伝に多額の予算をかけ、現状でやれることをすべてやって初日を迎えた。しかし、初週の興行成績は厳しい状況で、「まだ映画館に行くどころではない」という状況を浮き彫りにしてしまった。コロナ感染者数は再び増加の兆しを見せており、むしろ作り手側に「配信で公開」というマインドが広がる懸念がある。

苦しいのは製作側も映画館も同じ

「この苦しい時期になんとか踏ん張って、いきなり配信でなくてもリクープできるような手立てをもっと模索できないか。これからどうなっていくかは、厳しい環境のなか劇場公開を敢行した『MOTHER マザー』やノーラン監督の固い意志が象徴的なように、作り手の強い姿勢も重要になる。苦しいのは、製作側も映画館も同じ。だから安易に配信になだれ込まないでほしい。ハリウッドでもまだ答えは出ていないが、劇場興行と配信のまったく違うシステムのなかで映画をどう活かしていくかは、これからの課題だと思う」(大高氏)

これから本格的な夏シーズンを控え、いわゆる娯楽作品やデートムービーが相次いで公開される。そうした期待作がどこまで健闘するか今後の映画興行の行く末を占う意味でも注目される。

まず東宝配給の『今日から俺は!! 劇場版』。7月17日から全国300スクリーン規模で公開した。テレビドラマが幅広い世代から人気を得た作品の待望の実写映画化だが、ターゲットになる小学生から中高生の若年層がどれだけ映画館に足を運ぶかが焦点になる。本来なら興行収入40億円程度は狙える作品だが、このコロナ禍でも10億円を超えるようなら、映画界の空気も変わってくるだろう。

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