コロナの「空気感染説」がやはり拭えない理由 239人の科学者がWHOに軌道修正を要請
委員会のメンバーでシドニーのニューサウスウェールズ大学の疫学者、メアリー・ルイーズ・マクローズ氏は「空気の流れと粒子のサイズの問題については本当にいらいらさせられている」と話す。
「空気の流れについて再検討を始めるとなれば、今やっていることを大幅に変える覚悟が必要だ。私としては、再検討はいい考えだと思う。とてもいい考えだ。ただ感染対策の世界には激震が走るだろう」
4月初旬、空気の質とエアロゾルに関する36人の専門家グループが、コロナの空気感染を示唆する証拠が増え続けているとして、その可能性を検討するようWHOに訴えた。WHOは迅速に対応した。専門家グループのリーダーで、長年WHOのコンサルタントも務めてきたリディア・モラウスカ氏を指名し、会議を招集させたのだ。
しかし複数の会議出席者によると、議論で優勢となったのは手洗いを信奉する少数の専門家の声だった。これらの専門家はエアロゾル感染の危険性よりも手洗いの重要性を強調すべきだと考えており、そのため委員会の予防指針が変更されることはなかった。
モラウスカ氏らは、特に換気が悪く人が密集した屋内空間でコロナが空気感染したことを示すいくつかの事例を指摘した。同氏らによると、感染者は小さなエアロゾルと、より大きな飛沫の両方を発生させるにもかかわらず、WHOはこれらを作為的に切り分けている。
バージニア工科大学でウイルスの空気感染を専門とするリンジー・マー氏は、「咳をしたり話したりするとエアロゾルが発生することは、1946年の時点で明らかになっている」と話す。
現時点で科学者らは、実験室において新型コロナをエアロゾルから培養することには成功していない。しかし、だからといってエアロゾルに感染性がないということにはならない、とマー氏は言う。こうした実験で用いられるサンプルの多くは病室で採取されたものだが、病室は空気の循環がよく、ウイルス量も薄まっていると考えられる。
マー氏によると、多くの建物では「空気の入れ替わる速度は通常もっと遅いため、ウイルスが空気中に蓄積し(感染の)危険度が上がる」。