コロナの「空気感染説」がやはり拭えない理由

239人の科学者がWHOに軌道修正を要請

またWHOは「空気感染」について古びた定義に頼っている、ともマー氏は指摘する。WHOは、麻疹(はしか)ウイルスのように極めて感染力が高く、遠くまで飛散する病原体でなければ、空気感染には該当しないと考えている。

「空気感染については、この上なく愚かな意見を持って発信している」人がほとんどだと、ハーバード公衆衛生大学院の疫学者、ビル・ハナージ氏は語る。

「空気感染というと、飛沫が空気中にとどまり、通りを漂って玄関の郵便受けからあちらこちらの家の中に侵入し、何時間も経ってから感染の原因となり得るようなものを意味する、といったイメージがある」(ハナージ氏)

コロナに関しては、そのようにして感染が広がることはない。この点では専門家の見解は一致している。マー氏らが主張しているのは、コロナは人々が長時間「密」な状態でいるときに最も感染の危険が高まるように見受けられ、その危険はとりわけ室内で高くなり、さらにスーパースプレッダー(多数の人々に2次感染させる感染者)のいるイベントではもっと高くなる、ということだ。科学者の目には、これはまさにエアロゾル感染を示唆するものと映るに違いない。

エビデンスをめぐる矛盾した態度

多くの専門家は、WHOは「予防原則」あるいは「ニーズと価値」と呼ばれる考え方を採用すべきだと話す。決定的な証拠がなくとも、WHOはこのウイルスについて最悪のシナリオを想定し、常識を働かせて可能な限り最も安全な感染防止策を推奨すべき、ということだ。

「SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)がエアロゾルを通して大きく拡散するとか、感染を広げることを示す絶対的な証拠はない。しかし、それを否定する証拠もまったくない」と、イギリスのオックスフォード大学でプライマリーケア(初期医療)を専門とするトリシュ・グリーンハル氏は指摘する。

「そのため現時点では、不確実な状況の中で決断を下さなければならない。もし間違った決断を下せば、それは大変なことになる。だから念のために何週間かだけでもマスクの着用を徹底してはどうか」(グリーンハル氏)

そもそもWHOは大した証拠もないのに、コロナは物体の表面を介して感染する可能性があるという見解を進んで受け入れたではないか――。これがグリーンハル氏を含む研究者たちの見方だ。他の保健機関はすでに、こうした感染ルートを強調するのは控えるようになっている。

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