東大生が推薦「国語の成績が上がるマンガ」3選 入試の評論文は「前提知識」で理解が深まる
でもこの一見馬鹿げた「映画」や「演技」が、実は社会や宗教の根幹とリンクしていきます。
影も形もないものでも、人間はそれを信じることができる――これはユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』で指摘されていることですが、『ファイアパンチ』は、まさにそのことを体現している漫画です。
『ファイアパンチ』の登場人物たちはみんな、演技をしています。宗教を信じるフリをして、映画の登場人物の演技をして、他人から望まれる自分を演じて本当の自分を隠して……そうやって1つの社会、1つの宗教が生まれていく過程が描かれているのです。
社会の常識や、冷静に考えればおかしいとわかる宗教を、バカバカしいと思いながらも信じている演技をしているうちに、本当に信じてしまう。嘘(虚構)から誠(社会・宗教)が作られていく。『ファイアパンチ』が教えてくれるのは、こういう「社会」や「宗教」を生む人間の本質です。それを「映画」と「演技」を使って、非常に鮮やかに説明しているのです。
『ファイアパンチ』は、「宗教」「演技」「フィクション」といったテーマについて考えさせられるオススメの作品です。皆さんぜひ一度読んでみてください。
日本古来の「自然観」がわかるマンガ
現代文の評論において、日本と西洋の「自然に対する考え方」の違いを論じる文章はめちゃくちゃたくさん出題されます。
ヨーロッパの価値観が「自然を征服し、解明すること」を前提としている一方で、日本は「自然と共存し、自然に対する畏敬の念を持って生きる文化」があったと言われています。
森や川を壊して自分たちの世界を広げるヨーロッパに対して、森や川を壊すことなく、さりとて触れないのでもなく、人間も自然の一部として融和を図る日本の考え方……といった対立軸があるわけです。
しかし明治維新以降、自然に対する畏敬の念は薄れて、自然を大切にする風習は廃れていってしまいました。
こうした現代日本人の多くが忘れてしまった「自然に対する畏敬の念」や「自然との共存」を研究するのが「民俗学」であり、現代文を勉強するうえで、この概念は必須と言っても過言ではありません。
そんな考え方を学べるのが、『蟲師』というマンガです。
この作品は、日本人がまだ自然に対して畏敬の念を持っていた時代が舞台であり、「蟲」と呼ばれる超自然的な存在が登場します。「蟲」という字面からはグロテスクな印象を受けるかもしれませんが、そんなことはなく、このマンガの美麗な作画とも相まって、むしろ幻想的な生物群のような印象を受けます。
「蟲」は、人間の生活の裏側にただ存在しているだけで、害を加えようと思って害を加えることも、恩恵を与えようとすることもありません。しかし人間は、「蟲」が引き起こしたことを勝手に解釈して怒ったり、逆に好意的に見たり……と、いろいろな反応をします。その反応のあり方こそが、日本古来の自然観を象徴するかのような面白さがあります。
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