アップリンクのパワハラ訴訟が映す弱者の苦難 誰かの犠牲の上に成り立つ文化なんてない

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清水正誉さん(34歳)も「裏切り者のレッテルを貼られるかもしれない」と感じていたが、「どんな状況であってもパワハラは許されるべきではなく、アップリンクの労働環境が改善されてほしい」と、この時期に提訴した背景を語った。

ただ、会見後にツイッターでは「アップリンクを潰さないでください」というメッセージも送られてきたという。

馬奈木弁護士は、新型コロナウイルスの感染拡大で存続の危機にあるミニシアターの救済を目的としたプロジェクト「#SAVE THE CINEMA ミニシアターを救え!」の呼びかけ人も務めている。自身の立場について、「このプロジェクトは単に映画館を経済的に支援すればいいというものではない。映画やその担い手がどうあるべきかを含めて、取り組んでいることであり、今回の代理人としての立場とも両立する」と話した。

「誰かの犠牲の上に成り立つ文化なんてありません。映画に関わるすべての人々の尊厳が守られてこそ、文化は成り立つし、文化を発信する場は生きてくるのだと思います」。錦織さんは涙を流し、声を震わせながらそう語った。

パワハラ防止法、中小企業への適用は2年後

6月1日、企業にパワハラ防止対策を義務づける「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が大企業を対象に施行された。厚生労働省はパワハラに該当する3つの要件や、代表的な被害の例を公開している。

労働問題に長年取り組んできた笹山尚人弁護士は「企業がパワハラ防止に向けて何らかの対応をしなくてはならないことが、法律上の義務になった」と話す。とくに対策が遅れてきた中小企業には行政が介入しやすくなり、社会の意識改革も進むと期待されている。

ただ、パワハラ抑止への実際の効果は未知数だ。中小企業への適用は2年後であることに加え、解決のための実行力を持った相談窓口を設置できるかなどの懸念がある。

「業界内や顧客からのパワハラや、非正社員から正社員へなど、力関係の逆転したパワハラなどは現在の要件には当てはまらない。より幅広く定義し、対策をしていく必要がある」(笹山弁護士)

パワハラは人を痛めつけ、人生を狂わせる行為だ。映画を愛してこの世界に身を投じたアップリンクの原告たちが、実名と顔を出し、そして涙を流して語った言葉を、同社と映画業界は真摯に聞き入れる必要がある。

辻 麻梨子 ジャーナリスト

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つじ・まりこ / Mariko Tsuji

1996年生まれ。早稲田大学卒。非営利の報道機関「Tansa」で活動。現在はネット上で性的な画像が取引される被害についてシリーズ「誰が私を拡散したのか」を執筆している。

 

 

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