アップリンクのパワハラ訴訟が映す弱者の苦難

誰かの犠牲の上に成り立つ文化なんてない

実名で会見に臨んだ元従業員たち。左から鄭優希さん、錦織可南子さん、浅野百衣さん、代理人の馬奈木厳太郎弁護士(記者撮影)

映画を愛する人々からの信頼を裏切る出来事が起こった。

東京都の映画配給会社である「アップリンク」の代表、浅井隆氏と同社によるパワーハラスメント被害が告発された。声を上げたのは、同社の配給宣伝部門や経営する映画館で働いていた元従業員の男女5名。浅井氏とアップリンク、子会社2社に対して総額760万円の損害賠償を請求している。浅井氏は提訴を受け、公式ホームページ上で「不適切な言動があった」ことを認めている。

アップリンクは、大型の映画館では上映されないようなインディーズ作品を数多く配給・上映・制作してきた。1987年に浅井氏が映画配給会社として設立。2004年には東京・渋谷に「日本一小さな映画館」としてミニシアターをオープンした。その後は吉祥寺のほか、今月11日には京都でも新たな劇場を開館している。配給映画のラインナップには、アートや音楽だけでなく政治、紛争、差別などの幅広いテーマを揃え、世界のさまざまな国で制作されたものも多い。多様な価値観や少数派に寄り添った映画を展開する、象徴的な存在だった。

その裏側で常態化していたのが、浅井氏やベテラン社員による日常的な暴言などのパワハラだ。原告らが提訴と合わせて立ち上げた被害者の会には、すでに同様の被害の声が多数寄せられているという。

「会社に残るか、去るかだ」

6月16日、都内で提訴したアップリンクの元従業員の原告5名のうち、4名が実名と顔を公表して会見に臨んだ。浅井氏は利用客やほかのスタッフの前で従業員を激しく叱責する、自身が落としたゴミを拾わせる、「社長の言うことが聞けないのか」と怒鳴るなどの行為を日常的に行っていたとされる。

学生時代から約4年間働いていた錦織可南子さん(26歳)は、暴言に加えて新たな映画館の立ち上げに向けた過剰な仕事を抱えており、精神的にも肉体的にも疲弊していた。

「急ぎの用がないのに、休日にも執拗に電話がかかってきました。電話に出ないと、別の社員にも掛けさせます」。なぜ休日も連絡するのかと尋ねても、「社長の電話には出ろ」と大声で怒鳴りつけられるだけで、錦織さんの話には聞く耳を持たなかったという。

アルバイトとして働いていた原告の女性(22歳)は、「精神疾患者を雇った俺がおかしかった」と目の前で言い放たれたという。女性は3年前に父親を亡くし、時々精神的に不安定になることがあることを、浅井氏に以前話していた。「従業員のタイムカードが浅井氏の机の近くに置いてありました。出勤時と退勤時に横を通るだけでも、浅井氏の機嫌を損ねて怒鳴られるんじゃないかとみんながビクビクしていました」。

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