アップリンクのパワハラ訴訟が映す弱者の苦難 誰かの犠牲の上に成り立つ文化なんてない

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涙を流し同社でのパワハラの蔓延を訴える、原告の1人の浅野さん(記者撮影)

原告側の代理人を務める馬奈木厳太郎弁護士は「謝罪は協議を進めるための最初のプロセス。それを原告にせずに世間にお詫びするというのは、誠意を向ける方向が違う」と言う。

声明内容も、「謝罪や反省という言葉が出てくるが、自身のどんな行為がどう問題だったのかという認識が不十分。パワハラの深刻さをわかっていないと思われても仕方がない」と疑問を呈する。

小さな職場で声を上げる難しさ

アップリンクのように規模も小さく、経営者が強い発言権をもつ職場では、パワハラの被害者が直接加害者に加害をやめるよう訴えたり、見て見ぬ振りの社内環境を改善したりするのは非常に難しい。

元従業員たちは昨年末ごろから取り組んでいた訴訟準備の中で、一緒に声を上げる仲間づくりを行った。パワハラが普段から公然と行われている場合、同じ被害者だけでなく目撃者や証言者がいることも多いためだ。

退職者や現役の従業員に対し「まずは相談してほしい」と声をかけ、弁護士の同席するヒアリング相談会を開いた。全4回の相談会には、15人ほどが参加した。

それでも現役の社員や、今も映画業界にいる人たちに原告や賛同人になってもらうことは難しかった。ある元従業員からは、「自分は同じ映画業界で働いているから、声は上げられない。だけど全力で応援しているね」と言葉をかけられたという。

現在アップリンクと取引のある他社で働いている錦織さんは、会社から訴訟提起の会見には出ないでほしいと懇願されていた。それを拒むと、3月末から3カ月間結んでいた雇用契約を更新せず6月末で終了すると告げられ、雇い止めされる見通しだ。

「(雇い止めは)コロナ禍で経営が厳しいという理由だったが、3月頃に確認したときはそうしたことはないと言っており、疑問が残ります」と錦織さんは憤る。

業界内で声を上げる難しさを痛感し、提訴と同時に立ち上げたのが被害者の会「UPLINK Workers’ Voices Against Harassment」である。6月16日の会見後から同社に関する被害相談や別の場で同じ思いをした人からの励ましのメッセージなどが300件以上届いている。

そうした準備を進めていた最中、新型コロナウイルスの蔓延により訴訟の時期を見合わせることになった。その間、映画館は緊急事態宣言下での休業要請対象に加えられ、全国のミニシアターなどは経営危機に見舞われた。

危機的状況から文化の場としての映画館を守ろうと、クラウドファンディングや寄付が広がり、アップリンクにも多くの支援が集まった。浅井氏も映画館の救済を訴え、テレビ番組などにも出演していた。原告たちには、今アップリンクを批判すれば、せっかくの世の中の流れに水を差していると思われるのでは、という不安があった。

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