「日本へのメッセージ--グーグル、若者、メディア、ベンチャー精神について」梅田望夫(後編)


結局は「心」の問題

新興市場と今までの市場との一番の違いは、今までの市場というのは、どっしりした事業ばかりだから大体、ちゃんと計算が読める。この会社はどれぐらいの時価総額のものなのかというのが、ある程度ぶれないでできる。だけど、未知の技術、特許がどのくらいの価値があるんだろうとか、このチームはどれぐらい創造的なんだろうというのを評価するのは、恣意性みたいなものも入るし、そこはすごく難しい。それは構造的な問題なんだね。だから、そこの難しさを理解したうえで、そういうものが「内在している」という理解をすべきなんですね。

つまり、「内在している」という理解をしているか、「理想はないもんだ」というふうに思うかで、全然違うからね。後者に陥ったら解はないよ。何が起きても、一個何か起きたら全部ダメという発想になるからね。つまり、前者の「内在している」っていう理解をすると、一個の失敗を見て「これは何がおかしかったんだろう、これを食い止めるにどうしたらいいんだろう」と言って、制度設計にフィードバックができるじゃない。ベースにあるものの考え方で、新興市場にはバブルとモラルハザードは可能性が内在しているという理解が必要。モラルハザードのほうは、企業家とか経営者を責めていいけれども、バブルのほうは本人たちの問題じゃないからね。それは周りの問題だから、そういうことの切り分けをきちんとしていかないといけない。

--日本では、ネット事業に対する評価は高くないという感じはしますね。

それは、今言ったことに起因している。でもどうだろう、ヤフーとか楽天ぐらいまで、ネット事業といっても、リアルに売り上げとか利益があれば、若干マルチプル(PER)は大きいけど、だいぶ実体に見えてきているんじゃない。

--日本は、こちら側のものづくりというか、目に見えるものづくりに拘泥する嫌いがあって、あちら側のものづくりを行うネット企業は、虚業と言われがちです。『ウェブ進化論』がこれだけ読まれても、こうしたメンタリティーは変わらないものでしょうか。

簡単には割り切れない。一つには、今言った「新興市場が嫌い」「何ものにもなってないのに、こんなに時価総額が高い」っていうのがある。当事者として、バブルっぽい形で時価総額が大きくなっちゃったという会社を経営させられてごらんなさいよ。これも結構大変な話で、これは本人の責任じゃないからね。大きくなっちゃったら、そのお金を使って(株価を正当化しなければならない)。だって実体より高いってみんな知っているから、放っておけば、下がるよね。それを、株主に対する責任だって言われるわけだから。不当に株価が高くなった会社を経営するというのも、大変なことで、選択肢って2つぐらいしかなくて。中から出てくる技術とか事業をどんどんアクセラレートして、その時価総額に追いつく会社になりましょう、と一生懸命やるっていうのが、オーソドックスなんだけど、おいそれとそんなもの生み出せるわけがないから、当然、今度は株価交換だったりで、実体のある会社を買うっていう選択肢しかなくなってくる。そうした全体の構造みたいなものを嫌だと思っている人がいる。

もう一つは、やっぱり「製造業命」っていう思想みたいなものが、いい悪いはともかく日本にはあるよね。製造業がものすごく大事で、サービス業は低いものだと。これが一つあります。

もう一つは、ネットの向こう側に、何かものをつくっているということは知らなかったろうと思う。グーグルっていうのは、「ネットの向こう側でものづくりをしている会社だ」と。そういう表現は(本の中では)しなかったけど、インタビューではそう言ったことがある。「そう言われて初めてよくわかった」って言われるんだけどね。目に見えるところじゃないけど、巨大なサーバールームみたいなところに、何十万台もグーグルのコンピュータがあって、それをつくっているんですよと。それは見せてくれないし、それをたくさん量産して配らないけど、発電所みたいなものだよと。そうすると、電力会社、電話会社みたいなものか、電話会社だと向こう側に交換機があってとか、イメージできるじゃない。「ああそうなのか」、「ネットの企業って向こう側にあるのか」と。

今言った3つあるでしょ。「新興市場がらみで嫌だ」っていうのと、「製造業命」っていうのと、「ネット知らない」っていう。この3つ目については、ウェブ進化論で少しは言えたと思うんだけど、最初の2つは払拭できないですね。2はとくに強いよね。でも2が強い人は、3によって「ものづくりならいい」って許してくれる人がいるかもしれないね。1は制度、法律の問題というか、心の問題。企業家主導型経済の心みたいなものかな。

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