ボブ・ディラン「コロナの捉え方は無数にある」

インタビューで語った新譜、死、特別な存在…

エネルギーあふれる名演「グッバイ・ジミー・リード」で、ディランはミシシッピ州出身のブルース・ミュージシャン、ジミー・リードへの尊敬の念を、熱いハーモニカのリフやみだらな歌詞で表現する。スローなブルース「クロッシング・ザ・ルビコン」では、ディランは「皮膚の下にある骨」を感じ、死の前に何をするか考える。「煉獄から北に3マイル――あの世にあと一歩のところ/私は十字架に祈り、女の子たちにキスをして、ルビコン川(境界線)を超える」。

「マザー・オブ・ミューズ」は、自然界やゴスペル・クワイア、ウィリアム・テカムセ・シャーマンやジョージ・パットンらの軍人への賛歌で、彼らが「プレスリーの歌に道を開き、キング牧師のために道を開いた」と歌う。そして、「キーウェスト(フィロソファー・パイレート)」は、国道1号線をフロリダ・キーズ(フロリダ州南の列島)まで下る道のりを舞台にした、不死についての黙想だ。

ジョージ・フロイドへの思い

もしかしたら、いつの日かディランは、ジョージ・フロイドのために曲を書くか、あるいは絵を描くかもしれない。1960年代と1970年代に、ディランは「ジョージ・ジャクソン」「しがない歩兵」「ハッティ・キャロルの寂しい死」などの歌を通じて、公民権運動の黒人リーダーにならい、特権を持つ白人の傲慢さや、人種的憎悪の悪質さをさらけ出した。

1976年のバラード「ハリケーン」では、警察の取締りと人種についての激しい歌詞が見られる。「パターソンでは万事がこんな風に進む/あなたが黒人なら通りには出ないほうがいい/注意を引きたいのではない限り」。

ミネソタ州ミネアポリスでフロイドが殺された後、私は79歳になったディランに、短い追加インタビューをした。ディランは、自分の出身州で起こった恐ろしい出来事に明らかに動揺しており、落胆した様子だった。

「ジョージ(フロイド)があんなふうに苦しめられて死んだのを見ると、どうしようもなく気分が悪くなる。卑劣にも程がある。フロイドの家族とこの国に、早く正義がもたらされるよう願うばかりだ」

ディランへのこの2回のインタビューから内容を抜粋し、以下にまとめて紹介する。

──「最も卑劣な殺人」を書いたのは、長らく忘れられている時代に郷愁を感じて、賛美するためでしょうか?

郷愁とは違う。「最も卑劣な殺人」は、過去への賛美でも、過ぎ去った時代への送別のようなものでもない。その瞬間に(言葉が)語りかけてくるんだ。とくに歌詞を書いているときは、いつもそうだった。

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